それは…遥かな旋律。 初めて聴く、でも何処か懐かしさを感じさせた。 遥かなる、音色。 たった一度だけ聴いたあの音色が消えない。 脳裏にこびりつき、耳の奥で幾度でも反響する。 五月蝿くも無く、静かに静かに繰り返すだけ。 懐かしさを。 もの哀しさを。 ……愛しさを孕んだ、初めて見る彼の横顔と共に。 ふ、とレナは目覚める。 そして気付く。 夢の中にまで聴いたあの音色が、夢では無い事に。 今にも途切れそうな、儚いあの音色を聞き届け、ゆっくりとベッドから降り立つ。 他の二人を起こさぬよう、そっとドアを閉め、暗い廊下を渡り。 深夜のリックス。 微かに虫の声と、草が靡くだけの、静寂の世界。 其処で彼女は見る。 古ぼけたオルゴールを大切に抱えた彼の姿を。 止まる度、何度でも螺子を巻く姿を。 音色に掻き消される、微かな、詩。 俯いた顔は暗さと距離で解らない。 だが、流れてくる空気が一切を物語る。 近寄る事も、声を掛ける事も出来ずに、ただ立ち尽くすだけ。 あの痛さは何倍にもなって跳ね返る。 かつて、リックス、という村が在ったこの死した大地で。 やはり近寄る事も、声を掛ける事も出来ない歯痒さに、強く強く唇を噛み締めて。 あの夜と同じ、月夜の下。 連綿と続く哀しみを謳い上げる、あの遥かな音色。 それに連なる慟哭の旋律。 聴きながら、願わずにはいられなかった。 明日になれば、何時もの笑顔が戻って来てくれている事を。 そして、彼は居ない。 総てが終わり、生まれ変わった彼の故郷で。 オルゴールを抱え、目を閉じ、独り遥かな音色を聴く。 ぽたぽたと落ちる涙が、木箱を黒く染める。 終りじゃない。 此処から始まるのだ、と。 哀しい気持ちで聴いた音色が、今は優しく語りかける。 決意を込めて彼女は立ち上がった。 優しく暖かな笑顔を取り戻す為に。 この遥かなる旋律を、あの大きな手に返す為に。 FF5をプレイしていて「遥かなる故郷」という曲を聴いた時、迂闊にも人目も憚らず泣いた事を思い出します。 リックスという主人公バッツの故郷で流れるんですが、村に入ってその曲が流れ出した途端、 痺れた様に動けなくなって。 コントローラを取り落として泣き続けました。 本当は村に行く以前にも聴く事は出来るのですが、此処で聴くとまた別格。 この村に、村人達に思い入れをしただけに、あの展開はマジで辛かった… 色々なゲームをプレイしてきてゲームミュージックも色々聴いたけど、泣いてしまったのはこれだけです。 エアリスのも捨てがたかったですが、これのオルゴール出たら、今でもマジで買う気満々ですよ。 今までもこれからも。変わらずに好きです。 曲も、勿論物語も。 20040101UP Back |