「ジタン?」
今日は休みにしよう、と突然切り出したジタンの提案で、飛空挺ヒルダガルダが、何も無い--陽の照り返しで、
さながら緑色に光る海原のような草原へと静かに着陸したのは数時間前の事。 少し早めの昼食をとり、仲間たちはそれぞれに時間を過ごしていた。 昼寝をする者・片付けに追われる者・武器の手入れに余念の無い者・鍛錬に精を出す者。 その中で、ふと、ダガーはジタンが居ない事に気づく。 別段用が有ったわけでも無いが、広い飛空挺の中を彼の姿を求めて歩いていた。 ブリッジ・船室・食堂・地下倉庫・果ては屋根の上にまで上がってみたが、 ジタンの姿は何処にも無い。 何時もなら、なにしてんだよ、と向こうから顔を出してくるのに。
ちょっとした腹立だしさが不安に摩り替わって行くのに、さして時間はかからなかった。 速まる鼓動を抑えるかのように、胸に手を当て、暫し何かを考えていたが、急に甲板へと走り出す。 飛空挺の中に居ないのなら、考えられるのは唯ひとつ。
外へと出られる自動ドアは、内からロックが掛かったままだったが、身の軽いジタンの事。
小川を跨ぐような軽い気持ちで、甲板から飛び降りたに違いない。
そう思った彼女は、手すりから身を乗り出して草原を見渡す。
生憎と、彼が飛び降りた形跡は見つからなかったが、確信に近いものを得たダガーは、もう一度昇降口へ走り、
何を思ったのか、自分の部屋へと駆け戻る。 モンスターが居てはけない、と右手にしっかりウィザードロットを握り締め、独りヒルダガルデの外…緑色の海原へと出た。
あれだけ、走り回っていたにも拘らず、誰一人として彼女の行動を把握し、飛空挺の外に出て行った事に気づいた仲間は
居なかった。
地平線まで続く草原を見渡し、大きな呼吸をひとつ。 そして、疎らに生えている名前も判らない大樹のひとつへと歩き出す。
ゆっくりと。
心地の良い初夏を思わせる風が、足首まで覆う草と、彼女の濡れ羽色の、短いが美しい髪を優しく撫でて通り過ぎて行く。 どうしてこんな場所で休みにしよう、と言い出したのか何となく理解出来た。
陽と草と風の匂いがする。
何処かで知っている筈なのに、思い出せない。 何処だっただろう、とロッドを後ろ手に持ち替えながら、小首を傾げる。
ひどく身近だったような気さえするのに。
そして見つけた。
そっと呼んでみたが、返答は無い。 眠っているジタンを腰を屈め覗き込んで、ふわり、と笑う。 ジタンが見れば、硬直間違い無しの史上の微笑み。 彼の横に座ると、穏やかにその寝顔を見つめた。
考えてみれば、こういう光景は初めてかもしれない。
何時もならば、声をかける以前に近づくだけで、気配を察知して飛び起きるジタンが、無防備に寝顔を晒している。 そんな事が、ただ嬉しい。
ふと、自分たちに舞い降りる木漏れ日が目に入った。 暖かで優しくて穏やかになれる。
この旅は、苦しく、哀しい事ばかりが多すぎて。
悲壮な想いが拍車をかけていた。 今、あの歌を歌っている時と同じくらい、それ以上の気持ちが此処に在る。
随分と長い間忘れ、失っていたこの気持ち。
唇からあの歌が零れる。 横で眠っているジタンを気遣い、けして大きな声ではないが、今まで歌ってきたどの時よりも想いに溢れていた。
自分を励ましたり、慰める為だけではなく-- ただ、誰かの為に、為だけに、--陳腐な言葉にならないように。
愛しさを、愛しさだけをひと言ひと言に込めて、満たして送る。
どうか、届きますように、と。
(ダガー?)
うっすらと開いた目に、目を閉じ、胸に手を当て歌うダガーの姿がぼんやりと映る。 何時の間にか、彼女が傍らに居る驚きも何故か感じず、横顔を見上げていたが、再び目を閉じる。
その直前、何事かを呟いたが、彼自身にも聴こえないほど微かなもので、ダガーに届く筈も無かったが、
彼女は穏やかにメロディを繰り返す。
まるで聴こえていたように。
-----歌が聴こえる。
風は歌を巻き上げ、遠くへと運ぶ。 大切な陽と草の香も乗せて、もっと遠くへと。
FF共通ネタ「9・ジタガネバージョン」です。
と言っても、サモナイでもやってるんで、「またこのネタか」と怒られそう…
はい、私昼寝ネタ大好きです。
ジタガネは、FFで初めてコンチクショー的にハマったカプです。
店頭ムービーでやられました。ステキすぎです。ガー様。(そっちかい)
オフラインで出したFF9コピー本「SONG」から再録です。
20030605UP
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