「マグナ」

声の主が誰か、なんて本当に野暮だと思う。
俺の一番好きな声。
ネスに読むよう言われてた本なんか、もう頭に入るはずがない。
あっさり机に放り出し、俺は首だけを後ろに巡らせながら笑いかけた。

「アメル」

とことことやってきたアメルは、俺のすぐ後ろ…右脇にちょこん、と座る。
そして、俺をじっと見ている。

「…どうしたの?アメル」

上目遣いの榛の瞳は、いつ見ても可愛い。
ぼんやりとそんな事を思っていた俺には、アメルの次の言葉なんか想像できるはずがない。

「頭を撫でてください」
「…え?」

驚いてアメルの顔を見つめる。
だけど、いつもの笑顔。
まるで、買い物に行きませんか?とでも言ったような、そんな気軽さで。

「……どうしたの?アメル」

俺は再度聞きながら、身体を彼女の正面に向けて座り直す。

「別に、なんでもありませんよ?…それとも、あたしがこんなことお願いするのはおかしいですか?」
「い、いや…そんなこと…ないけど」

ぽすん。

栗色の頭に手を置くと、くすぐったそうにアメルが笑った。
さらさらでつやつやで、俺の太い指でもひっからない。
力が入り過ぎないように加減をしながら、何度も何度も頭を撫でると、アメルは気持ち良さそうに目を閉じる。

「アメル…?」
「…はい?」
「なにか…有った?」
「いいえ?なにも」

そう言うと思った。
だけど、さらに俺は尋ねる。

「悲しいことが有った?」
「……」
「苦しいことが有った?」
「……」
「楽しいことが有った?」
「……」

聞く間にも、俺の手は止まらなかった。
その心地好さに手が吸い付いたように離れないんだ。

アメルはどれにも答えてくれない。
次になんて尋ねようかと、ちょっとだけ出来た沈黙。
その隙間に囁かれた言葉。
尋ねることばかり考えていた俺は、当然聞き逃していた。

「え?なにか言った?」
「…れも、違うって言ったんですよ」
「…違う?」
「はい」
「じゃあ…?」

手の下から榛色が覗く。

「ここに…」

とろけるような笑顔。
目が離せない笑顔。

「幸せなことなら、有りますよ?」

 本当に、こうして貰いたいだけなんです。

小さな白い手が俺の手にそっと触れる。
優しく伝わる温かさに俺は空いた手を伸ばす。
細い背を強く引き寄せて、自分の胸に押し付けた。

「マグ、ナ?」

少し、驚いた声だったけど、抵抗は無かったから。
俺はそのまま両手で抱きしめた。
さっきよりもっとずっと。
アメルの温かさが身体中に伝わって、すごく心地良い。

「…俺も、幸せだよ」

 すごく。

そう言うと、ふっとアメルの身体から力が抜けて、頭がぽすん、と胸に収まった。
栗色の髪に顔を埋めると、とてもいい香りがする。
心地良すぎて、このまま寝てしまいそう。

「マグナ」
「ぅん?」
「あたし、ずっとあなたと一緒にいたいです」
「うん。…俺も。君を放さないから」

俺たちは顔を上げる。
息が掛かりそうなほど近い距離で、少し頬を朱に染めて微笑む彼女はとても綺麗で。

「今日も」
「明日も」
「十年後も」
「おばあさんになっても」
「「…ずっと」」
「…誓うよ」

幸せそうに細められた榛色がゆっくりと瞼に隠されて。
俺はそっと顔を落とした。










「あ、はは…」

俺たちを包む空気はとても穏やかで気持ちよくて。
でも、やっぱりどこか気恥ずかしくて。
情けないけど、俺は逃げるように立ち上がってしまった。

「あ、アメル?なにか仕事があったら手伝うよ。えーっと…っ?」

背を向けた俺の腰に何かが強く当る。

「…な…?」

驚いて見下ろす俺の腰に手を回して、アメルは楽しそうな弾んだ声を上げる。
ああもう、俺は君に負けてばかりだ。
その手を軽く捕まえて、何度も何度も心の中で彼女への想いを反芻する。

「大好きです。マグナ」

 あぁ。俺も、だよ。

掠れた声で、答えた。









なんだろう…このラブは…
唐突に思いついて正直に書いたものの…自分の頭がちょっと新年早々湧いてる気がします。(苦)
サモでは初めて書きましたよ…き、
キスなんて…(脱兎)

イメージ的には、ハヤクラで書けないもの、を目指したのですが…
うん、こんなのハヤクラではまだ書けないよね…
マグアメはこう…二人性格の所為でしょうか、わりと人前でも公然とラブりそうな感じです。
で、どちらかと言えば、マグナの方が照れが有る、と(笑)
タイトルは最後のアメルさんの攻撃(?)から。
可愛いですよね♪

ちょっとでも二人が(特にアメルさんが)可愛く感じて貰えれば嬉しい限りです。

2006年度最初の話と言う事で、暫くの間こそーりフリーにします。
お気に召した方がいらしたら、どうぞ。


20060106UP


ack