薄暗い部屋の中から。 目も眩むような光が満ちる外へと――――― 「……ナ。お…グナ…!」 「………………」 「………おいっ!マグナ!!」 べしっっ! 「あいたぁ!?いきなり何するんだよ、フォルテ!」 大きな手のひら、旅慣れた剣士の腕。 それが思いっきり弾けて、じんじんと痛む後頭部を押さえ、涙目になりながらマグナは後ろを振り返る。 「なぁに、言ってんだ。俺はさっきからお前さんを呼んでたんだぜ? お前さんが俺をシカトしてたんだろが」 「……えっ?」 きょとん、と大きく見開かれた青紫の瞳。 そこには、何の悪気も含まれてはいない。 フォルテはその純粋な瞳が見ていた方へと顔を向ける。 薄暗い部屋の中からでは、思わず目を細めてしまうほどの光量が入ってくる。 もう、見慣れてしまったギブソン・ミモザ邸の庭先。 今、そこで動くものは何も無い。 ただ、時折さやさやと緑に色づいた新緑の葉が、優しくそよぐだけ。 つい、数日前此処で戦いがあったなどとは考えられないほど、のどかな光景。 それでも、この風景の何処にそんなにも見惚れるものがあるのだろうか? 先陣切って戦いに飛び出す無謀者かと思えば、呆れるほど純粋な側面を見せる青年の横顔に、溜め息をひとつ。 「…ま、いいか。それよかお前さん、ミニスの捜し物を見つけるのを手伝う約束をしてたんじゃなかったのか? ミニスとケイナの奴が怖い顔で待ってたぜ?『マグナはまだなの?!』とよ?」 「………あ!?」 微妙に似ているようで似ていないミニスの真似を素振りも付け加えて再現して見せると、途端に彼の顔が青くなった。 「今、何時だ?」 「もう、とっくにお前さんが約束をしていた時間は過ぎてるぜ?」 反射的に部屋に掛けてある時計に目をやって、マグナは慌てて飛び出す。 「おーおー。ガンバレよ、若者!せいぜい尻に敷かれてこい!」 にやにやと笑いながらすぐに消えた背を見送ったフォルテの視界の隅を何かが横切る。 慌てて振り返った先には、光溢れる青い空とそよぐ新緑の葉。 そして。 ひらり、と舞った青い切れ端と、陽の光で金にまで透けた栗色の髪。 たった一瞬横切ったそれを確かに目に留めて。 「ふぅん、なるほどな…」 玄関で文句を言うミニスと、謝るマグナの声が聴こえてくる。 それすらもBGMに変えて。 怒られるほど時間を忘れて見入っていたもの。 得心したフォルテは、うんうんと頷く。 薄暗い部屋の中から。 目も眩むような光が満ちる外へと――――― からかってやりたくて。 でも、無理もないよな、と男心も解ってしまう。 上へ上へと持ち上がる口の端を堪えきれずに。 「………惚れたな?」 何も無いと思っていたんだ。 でも、俺は君に出会えた。 悲しい事も辛い事もたくさん有ったけど。 それはすべて君に会って、君の事や自分の事を知るためだったんじゃないのかな。 今は、そう思うよ。 何も無いと思い込んでいたんだ。 暗い世界に満たされた光を、俺は忘れない。 単純にアメルさんに見惚れるマグナの図、というだけのミニ話なのですが。 そう見えませんか?見えなくとも、見てください。 一応、最後にタイトルの由来をマグナの一人称で書きました。 これはなんと言うか…派閥に拾われ師範やネスティに出会った後さえも、 自分を要らないと思い続けたマグナの心に差し込み満たした、光、を意味したくて書いたのですが… どうでしょう、取り敢えずは補足、という形でお願いします。 付け加えるなら、見惚れているところをフォルテにからかわれて、わたわた、という 話だったんですけど、そうはなりませんでした。 フォルテがからかい行動に行きませんでしたねぇ。(苦笑) うーん、思っていたよりほのぼのっぽくない気もしますが… まあ、思うとおりには書けたか、と。 マグナもやっぱりアメルさんが好きです。 20050520UP Ss Top |