名も無き世界から。
呼んでしまった人物。
その人と幾多の戦いと試練を乗り越えて。
ようやく心が通じ合った、と思った時。
その人は誓約者としての力を降り注ぎ。
この世界と、そして他世界との繋がりを断ち切ってしまった。
それはすなわち。
その人との、別れ。
あれからもう、どれぐらいの月日が過ぎたのか。
何ヶ月も何年も経ったような気もするし。
まだ一週間も経っていない気もする。
……私はいったい、何をしているのでしょう?
最後の戦いで父と生まれた場所を失くした。
研磨してきた召喚術も使えない。
なによりも。
あの人が居ない、この世界に。
自分だけが居る価値など無い。
気付けば一人、荒野に佇んでいた。
あの日、あの人を呼んでしまった場所。
その証である大穴は、あの日のまま。
穴の底を覗いて、薄く笑う。
あの時。
共に儀式に参加した召喚師たちは死に絶え、生きていたのは。
中心に居たが故に助かった自分と。
傍らで倒れていた人。
何処をどう見ても自分は魔王になってはおらず。
何処をどう見てもその人は魔王には見えない。
…失敗した?
魔王召喚の儀式が失敗してしまった事の父への恐れと。
倒れているあの人の姿に、例えようの無い既視感に混乱を覚えながら…逃げた。
私はあなたに逢えた事を感謝しています。
後悔なんかしていません。
…ですが。
あなたに、逢いたいのです。
逢って、あなたに言いたい事がたくさん有るんです。
……………あなたに、逢いたい!
穴の底に下りていく。
自分が居た場所へ立った瞬間、虚ろだった瞳が驚きに見開かれた。
「魔力が…!?」
リィンバウムと他世界に結界とが張られてからは、魔力の元となるマナも急激に失われた。
他世界への干渉は勿論、この世界の間でも、もう大掛かりな召喚術は使えない。
なのに。
何故か此処からは、こんこん、と清水が湧き出るように魔力が満ちている。
気付いた時には。
膝を付き、手を付いて。
喉から願いを発していた。
「我、この世界を見守る者。
護界召喚師クラレット=セルボルトの名に於いて、今再び召喚の門を開かん!」
うぉん!
自分を中心に巨大な魔方陣が広がる。
青白い力がゆらゆらと陽炎のように揺らめく中で。
たったひとつの願いを。
「我は願わん!名も無き世界よりの来訪者。
その者の名は…………っ」
喉元まで迸っていたその名を必死に飲み干す。
言葉にするのが怖かった。
その名を口にするだけで、泣きそうになる自分を良く知っているから。
こんな戯言で辛い思いは出来ない。
だけど。
縋るような想いが最後のひと言を押し出した。
「………。この世界の王たる者、『誓約者』」
カッ、と一瞬世界が真白の光に覆われて。
「ぅわっ?」
「きゃっ!?」
「なになになに〜?」
「な、なんなんだ?」
どさどさどさどさっ、と何かが落ちる音。
そして何故か4つ聞こえた悲鳴。
彼女は目を見張る。
そしてそれは次第に喜びに細められていく。
「ハヤト!」
「トウヤ!」
「ナツミ!」
「アヤ!」
不思議なほどに。
するり、とその名を呼んで。
名前を呼ばれ、『彼ら』は一所に視線を上げた。
「「「「……クラレット(さん)!!?」」」」
目じりに涙を浮かべて、クラレットは笑う。
逢えたら、絶対笑うのだと決めていた通りに。
「…すみません。でも、逢いたかったのです。あなたに」
…夢じゃない?
そう呟いたのは、『彼ら』のうちの誰だったのか。
一日だって忘れた事なんか無い。
ずっとずっと逢いたかった。
声が聴きたかった。
触れたかった。
4人は痛みも忘れて、懐かしく、優しい微笑みを見上げる。
「「「「それはこちらも同じだよ(ですよ)」」」」
もう一度この世界に呼んでくれたパートナーに。
最高の笑顔を返す。
そして。
此処からもう一度話は始まる。
前と違うのは。
誓約者が4人。
しかも。
以前とは少し違う姿であること。
…とりあえず。
再会に喜ぶ『彼ら』は気付いていないが。
おかしい、と。
彼女が気付くまでに、あと数秒。
…To be continued?
シリアスだと思われた方、残念でした?
これはオフラインでやろうと思っていた話をさらにギャグっぽくした話、です。
本来ならば、一人だけ呼べたものを、『誓約者』などと曖昧な言い方をした所為で、
4人とも召喚されちゃったんですよね。
しかも、ちゃんと表現して無いですが、色々と不都合も出てます(苦笑)
とりあえず最低ふたつは。
漠然と考えている中では、結構何でもアリアリな設定なので、
はちゃめちゃな話も出来そうです。
続く…かどうかは、みなさんの反応次第、ですけど(笑)
本気で見たい、という方いらっしゃるのかなぁ?
(ちなみに別タイトルは「誓約者4分の1」(苦)
20040328UP→20050208
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