その瞬間、漏れたのは溜息。
深い、深い安堵。
そして。
それ以上のやるせなさ。





これが英雄譚ならば、この場を満たしたものは歓喜と喝采、賞賛であった筈なのに。
いや、おとぎ話の主人公達もこんな想いだったのかもしれない。
こんな結末しか、生み出せなかった事への。





胸に深々と突き立つ剣。
手首まで埋まれ、と言わんばかりに容易く貫通する。
背からは、鈍く光る刀身が嘲笑い。
降り注ぐ生温かい雨が、視界を紅く染める。




この世のものではない、断末魔の叫びを上げた異形の者。
かつて、宿敵と呼んだ男。
きっと分かり合える、と呼びかけ続けた男。
それだったものは、さらさらと、まるで土くれに還るかの様に形を無くす。





誰からとも無く漏れた溜息が聴こえる。
総ての視線が、剣を持つ手に集まっているのが解る。
仕方が無かったのだ、と肩を落とす雰囲気が満ちる。





仕方が無かった。
もはや、これしか方法が無かった。
でも、絶対に望んでいた結末では無かった。





どれもが言い訳。
力無い、自分への。
救えなかった彼らへの。





そう、仕方が無かった。
貴方が悪いわけじゃない。
声無き声で泣き叫ぶ背に、喉まで出掛かった声は、やはり音に成る事を拒絶する。
竦む足は近寄る事を赦さず、ただ、じっと見つめる事しか出来ない。





どれほどの時間を静寂が支配していたのか。





がらん、と剣が石畳を打った音に、誰もが驚いて肩を竦める。
その生命を奪った姿勢のまま止まっていた、かの者の時間が動き出す。
だらり、と落ちた腕が剣に石畳を打ちつかせ、上体が大きく傾ぐ。





同時に仲間達の時間も動き出す。
よろめいた反動で、仲間達の方へと身体を向け立ち尽くす。
身体には、力の名残の白き光を纏い。
その顔は、まるで赦しを請う罪深き者。





誰もが言葉を無くす中で、かの者はほんの少しだけ微笑を唇に乗せて。
伝わる痛みに顔を歪ませる仲間達の間をすり抜け、己の片翼の前に立つ。
正面に立つと片翼もまた、小さな笑みをかの者に返した。
同じように痛くて、そして限りなく優しい笑みを。





更にもう一歩、距離を縮める。
暫く絡み合った視線は、かの者が力を失い、瞳を閉じた事で途切れる。
とん、と片翼の肩口に額を押し当て、項垂れた。





この力は何の為に在ったんだろう。
誰も、結局は誰も助けられなかったのに。
ゴメン、力不足で。
ゴメン、何も出来なくて。





掠れる懺悔は片翼の耳にだけ、届く。
唇を噛み締めて、呟きに耳を貸した。
瞳を閉じて、両の腕を伸ばした。
言葉も想いも、欠片すら取り零さぬ様に。








1」の初プレイ開始直後。
サモコレと「1」のCDを見聞きして思いついたもの。
EDテーマのイントロ部分に、これらのフィルムがインサートされるイメージで。
サモナイでは初めての散文詩的なものですが、やっぱりこういったものは書き易いですね。
やはり慣れてる所為か(苦笑)
こんなに長くなるとは予想外でしたが。

イメージ的にはハヤクラだけど、どの組み合わせでも想定出来るようにしてみました。
イメージ曲は勿論、「Need To say Good−bye」。


「君(あなた)に貰ったものを今こそ返そう。
その折れそうな心を、受け止めるから」


20030926UP



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