「ただいま、師範。蒼の派閥の召喚師トリス、視察の旅から帰ってきました!」 「ご無沙汰しています。ラウルさん」 「おお、トリスにアメルさん。よく、帰ってきたのぉ」 よく日焼けをした笑顔で、びしぃっ、と敬礼をしたトリスと、以前よりずっと髪が伸びたアメルはぺこり、とお辞儀をした。 「しかし、お前たちが帰ってくるとは聞いてなかったが」 はて?と首を傾げたラウルに、何故か慌てた風に、教えてなかったから、とトリスは答えるが、それすらも遮って ラウルは続ける。 笑いながら。 「今度の視察の旅は、もっと日数がかかる、と言っていたのは誰だったかのぉ?」 「……バレちゃってますよ、トリス?」 「……むぅ〜」 師範には敵わないなぁ、と呟いて、背負ったままの荷物を降ろす。 そして鞄に無造作に挿していた杖を引き抜くとラウルへと差し出した。 「これ、師範にプレゼントです」 「…ワシ、にか?」 トリスの意外な言葉に、珍しく呆気にとられたラウルに、二人は大きく頷いた。 「前の戦いの時に、師範、大切な杖を貸してくれたから。あれには及ばないかもしれないけど、師範に貰って欲しいな、って。 アメルが見てくれたのよ。強い力が宿っている杖なんだって」 「サプレスの天使の加護なんです」 「そんなものをワシが貰ってもいいのか?」 「あたしたちは師範に貰って欲しいんです!ねえ、アメル?」 「ええ。特にあたしはラウルさんにはお世話になってますから。 あたしがクレスメントの姓を名乗りたい、と言った時も、派閥に属することになった時も、 何時だって力を貸してくださいましたから。…こんな事しか、出来ないですけど」 「あの時は本当にびっくりしたけどね…でも、確かに師範が居てくれたから、アメルの願いも叶ったし、あたしたちも帰ってきて 『ただいま』って言えるの。師範のお陰、だよね」 「いやいや。気持ちだけでも嬉しいよ。有難うよ、二人とも。有り難く貰っておくとしよう」 トリスの手から杖を受け取って、穏やかに微笑んだラウルを見て、二人は会心の笑みを浮かべて、やったね、と手を叩き合う。 「ありがと、師範!」 「有難うございます、ラウルさん」 「礼を言うのはこっちじゃよ。それにアメルさんや、ワシの事はそんなに他人行儀で呼ばなくていい。 トリスの家族はワシの家族。ワシの娘なんじゃからな。 ……ふふっ、こう言うとアグラバイン殿に叱られるじゃろうか?」 「いいえ、そんな!…嬉しいです、本当に」 「…アメル…」 一瞬、声を詰まらせたアメルをトリスは不安げに覗くが、それに反してアメルの表情は明るかった。 「じゃあ、あたしの事も『アメルさん』じゃなくて、『アメル』と呼んで下さい。…お養父さん」 少しだけ頬を染めて、でも、見惚れるような天使の笑みを浮かべ、真っ直ぐに自分を見つめてくるアメルの頭をラウルは 優しく撫でる。 「…確かに、そうじゃ」 「師範、あたしね…」 黙って二人の会話を聞いていたトリスが、此処ではない何処かを刹那見たあと、こう切り出した。 初めて見る、大人びた笑顔で。 「あたし、旅に出てよかった。最初は追い出されたと思ったし、辛い事も悲しい事も一杯有ったけど。それだけじゃなかった。 たくさんの人に会えたから。あたしには師範とネスしか居なかったけど、今は違う。 兄さん、姉さん、弟、妹、お父さん…それにアメルも。血は繋がっていないけど、『家族』を得たから。 …あたしは、幸せです」 「…トリス…」 「それは紛れも無くお前が自分の力で引き寄せて得たものじゃ。大切になさい」 「…はい!」 大きく頷き、見上げて来る視線をラウルは心から誇らしく思った。 彼女を育て上げた自負と喜びが胸中に広がる。 「トリス、アメル。ワシの娘たちよ。お前たちが選んだ道を胸を張って歩きなさい。 ワシは何時でも見ておるからな」 「「あ、有り難うございます!!」」 「おーい!トリス、アメルー!」 「レナードさんの声ですね」 「…しまった!レナードさんをミモザ先輩の所へ連れて行く約束をしてたんだっけ。忘れてた…」 あっちゃ〜、と頭を掻いて、子供の顔を取り戻したトリスに、ラウルはもう一度目を細めてから、優しく告げた。 「早く行きなさい。…もう一人のお父さんをあまり困らせては行かんぞ?」 「は、はい」 「それじゃ、師範。また後で!」 駆け出した背を見送り、ラウルはふふふ、と小さく笑う。 「ワシは何時かトリスとお前がバスクを継いでくれるとばかり思っていたが…解らないものじゃな」 「養父さん!」 声の後、ラウルの後ろからネスティの姿が現れた。 「何を言っているんですか、大体僕は…」 「違ったかの?」 見透かされている、心内で呟いて、言わんとしていた事を即座に切り替えた。 「…僕は、彼女がクレスメントである自分を知った時、きっとそうである自分を選ぶと思っていましたが」 「…そうか。あの子らの事じゃ。名前の重さにもこの派閥の重さにも負けずにやって行く事じゃろう」 「…そうですね」 「さて、ワシは一先ず先に帰ってお茶の用意でもしとるよ。あの子らの事じゃから休む事もせずに報告に来るじゃろうからのぉ」 わざわざ今日の日に合わせて帰ってきたのは、自分の誕生日の所為だろう。 ラウルは思う。 覚えていたのか、思い出したのかそこまでは解らないが、今の視察の旅から大きく外れているゼラムまで帰って来てくれた事が嬉しい。 そしてそれを一言も口にしない辺りがとても彼女たちらしく、本当に誇らしい。 楽しみで仕方ない、といった笑みを浮かべたラウルに、ネスティも肩を竦めて薄く笑った。 「…僕もお手伝いしますよ、養父さん」 ひとつのテーブルを囲んで笑う家族のひと時はもうすぐ其処。 ええ、…っと。これは某サイトさまで2004年6月に行われていた「お父さん祭り」 (サモのお父さん的キャラを父の日に合わせて応援しようという企画でした)に参加(?)したものです。 主催者様の「アメトリとラウル師範の組み合せは可愛いんじゃないかな?」と言うお言葉を拝見して、 思いついたものでした。 「お父さん祭り」というよりは「家族祭り」ですね… うわわ…最近サモ2もプレイして無いので、師範の喋りに自信が無いんですけど… こんな感じだったかなぁ、と。 アメルさんがクレスメントの姓を名乗る件に、アメトリ好きとして力を注ぎました(笑) 柔らかい空気とか、しっとりした感じとか、ほのぼの感が出ていれば良いのですが。 アメトリは柔らかい雰囲気が書きやすく、心地好く、温かく、とても好きな組み合わせです。 (書きやすさではサイト一番かも) この話は、素敵な題材を提供してくださった、日野司様に捧げます。 20040702UP Ss Top |