「そう言えば」

淹れ立てのお茶を飲みながら、僕はふと思い出す。

「はい?」

盆を胸に抱え、きょとん、と首を傾げるアメル。

「先程の話だが、野菜屋の主人になにか話しかけられて驚いていただろう?
何を言われたんだ?」
「え…えーっと…」

視線が泳ぐ。
僕がじい、っと見つめると、何故か頬を僅かに赤らめ、そっぽを向いてしまった。

「……まあ、言いたくないなら構わない。無理に詮索しようとは思わないからな」
「………………………たんです…」
「なんだ?」

あまりに小声で呟かれ、思わず僕も聞き返す。

「何時もと…一緒に来ている人が違うね、と言われたんです」
「それはそうだ」

彼女とは初めてあの場所に行ったのだから。
何もおかしくないじゃないか。
はぁ、と大きく深呼吸した後、真っ直ぐに僕を見つめてくる。
柔らかく笑みながら。
盆で口元を隠して。

「『大切な人かい?』と聴かれたので『はい!』と」



あの時垣間見た顔と同じ表情でそう言った―――


op