12月25日。
待ちに待った、と言うか。
もう、この日になってしまった、と言うか。
此処一週間ほど、忙しそうに動いていたマグナの動きは今日は特に忙しない。
ペンキが付いたエプロンを着用したまま、近くの森から伐採してきた樹に飾りつけをしていた。
兄弟子ネスティに、君が此処まで器用だとは思わなかったよ、と言わしめた手つきで。
足元には大きな紙が敷かれ、そこにはたくさんの物体が一見無造作に、
でも、細心の注意を払われて置かれている。
ガラス面を赤や緑のペンキで塗られた小さなランプ。
幅3センチ、長さ20センチほどの色とりどりの紙を鎖状に結んだ、ロープのような物。
小さなボールには金と銀の色が塗られ。
ひときわ大きな星は粘土で作られ、乾燥した上から銀に塗った。
大量の綿はペンキが付かないように少し離れた場所に。
「うーん…」
手にもそれが付いてるのか、何かを考え、頬に手をやるたびに、縞模様が一本増える。
それはまるで、斑。迷彩柄に近いかもしれない。
むろん、彼は気付かない。
口元には子供のような楽しげな笑みを終始浮かべ、脚立に上がっては
飾り付けをし、下りてはそのバランスを見る。
その繰り返し。
鼻の下をごしごしとこすり、殆どの飾り付けを終えた樹を見上げてかくん、と首を横に傾げた。
「こんな感じなのかなぁ??」
マグナは『クリスマス』と言うものを知らない。
彼が知らないのではなく、このリィンバウムには存在しないイベント。
それを教えてくれたのが、名もなき世界から来たと言う青年、ハヤト。
大悪魔メルギトスを封印するのに惜しみなく、その力を貸してくれた大切な仲間。
エルゴに選ばれ、誓約者という超越的な立場でありながら、
それを全くと言っていいほど感じさせない気さくな青年。
歳も性格も似ていた所為か、出会ってすぐに意気投合した二人。
それ以来交友は続いている。
そのハヤトが先月ゼラムに遊びに来た時教えてくれた。
『クリスマス』という楽しそうなイベントの事を。
お世辞にも上手いとは言えないハヤトの説明。
おもろかしい事だけを脳裏に焼き付けたマグナ。
ようするに。
マグナの中で『クリスマス』とはクリスマスツリーを飾り、何時もよりは
美味しい物を食べてプレゼント交換とかをして遊ぶ。
そんな認識くらいしかない。
紙に書いて説明するハヤトと、思いっきり覗き込んで相槌を打つマグナの後ろ姿を、
彼らの終生のパートナー達は苦笑交じりに見守っていたのは他の話。
「どうですか?出来ましたか?」
玄関からひょい、と栗色の髪の毛と笑顔が覗く。
「あ、アメル。見てくれよ、こんな感じかな?」
アメルはすっかり汚れてしまった彼の顔に、一瞬驚き、堪えきれず吹き出す。
頭の上に???と浮かべるマグナの手に、持ってきたカップを差し出した。
中身は淹れ立てのミスティカティ。
二人が好きなお茶。
アメルは樹の全体像を見るために、とととっ、と下がり、眩しい物でも見るように目を細めて見上げた。
「あたしも、くりすますつりー、という物が良く解らないですが…」
「ですが?」
「とっても綺麗だと思います」
「そう思ってくれる?」
「もちろんです。夜になったらこのたくさんのランプに火が点るんですよね?」
「うん」
「…綺麗、でしょうね…」
その光景を想像したのだろうか。
瞳を細め、風に流される髪を押さえる、何気ない彼女の仕草にマグナは思わず見惚れ、
それから彼女が発した一言に思いっきり咽た。
「流石はご主人さまです♪」
「……っ!??げふっ?ごほ…っ…………って、アメルぅ!?」
「はい?」
その笑顔に、マグナはまたやられた、と瞬時に思った。
「…だからさ。『マグナ』でいいって。なんか慣れなくて調子狂うよ、それ」
耳まで真っ赤。
心臓はアメルにまで聴こえそうなほど大きな音でばくばくいっている。
「でも、あたしを誓約した人は貴方ですから」
「…う。まあ、そうだけどさ。でも俺はアメルの主人だとは思ってないし、
召喚主と召喚獣が主従関係だとは思ってないよ」
「………マグナらしいです」
メルギトスを封印した後、ひょんな事からアメルと誓約を交わしたマグナ。
確かに二重誓約によって、誰よりも愛おしい彼女が、何処の誰かとも解らない人間に
召喚されるよりマシだと思い、彼女の願いでも有った誓約を交わしたが、これだけはどうにも慣れない。
もう、半年も経つのに。
しかもアメルは毎日ではなく時折、まるで頃合を見計らったように呼んで来る。
自分だけの呼び方だと思うと恥ずかしいような、嬉しいような気もするけど、自分を
『ご主人さま』と呼ぶアメルは天使と言うより小悪魔的だとも思う。
ホント、弱いよな、俺。
「何を考えているんですか?」
「べ、別になんでもないよ?!」
「…そうですか?さあ、じゃああたしも頑張りますか!」
白い細腕でガッツポーズを決め、爪先立ちでふうわり、と方向転換し
て家へと戻るアメルの背をマグナは慌てて追いかけた。
「アメル!俺も手伝うよ」
「でも、マグナは此処暫く頑張っていたから疲れているでしょう?休んでてください」
「こんなのなんでもないって。それよりアメルの方が大変だろ。
みんな来るんだし、量も半端じゃないんだから」
今日は死線を共にくぐり抜けた仲間たちと会う日。
ハヤトにクリスマスの話を聴いて、それなら今度会う仲間たちにも
教えてやりたい、と思ったのが今回のきっかけだった。
「みんなが来るのは5時頃だったな。それまで一緒に頑張ろうぜ」
「マグナ…」
「なんだって分かち合う、そう約束しただろ?」
「…うん」
二人は並んで玄関をくぐった。
マグナがクリスマスツリーを作っていた数日、アメルだって何もしてないわけじゃない。
マグナに倣い、彼が作った小物を飾り、今日の料理でも手の込んだものはほぼ出来上がり
、他の料理も既に下ごしらえは終わっている。
二人の生活で料理に慣れてきたとはいえ、アメルには到底及ぶはずも無く。
料理は彼女に任せ、マグナは普段使わない食器を押入れから
引っ張り出してきては洗う係に専念する。
「…ふふっ」
「どうした?アメル」
「いえ。楽しいなぁって思っただけですよ」
「そうだな」
出来上がったスープをスプーンに取り、一口だけ、手の塞がったマグナの
口に流し込むと、途端に彼の顔が緩む。
声なんかよりもずっとストレートに伝わってくる、美味しい、という言葉。
「『くりすます』というのを知ってるのはあたし達だけですよね?
みなさん、驚いてくれるでしょうか」
綺麗に飾り付けをされた庭の樹と家の中。
それに、少々奮発して作った豪勢な料理の数々。
「そうだな。みんな驚いてくれるといいな」
揚がったばかりの唐揚げをひょい、と口に運ぶ。
アメルの目を盗んだつもりだったが、完全にバレていた。
肩を竦め、行儀が悪いですよ?と小さくて可愛いお叱りを受け、
マグナは洗ったばかりの大皿にそれを移す。
次から次へ出来上がっていく料理を応接室に運びながら時計を見ると、すでに4時を回っている。
「なんとか間に合いそうだな」
「そうですね。マグナのお陰です」
「アメルが手馴れているからだよ」
「マグナがあたしのしたい事を先にしてくれるから、早いんですよ?」
「……そう?」
そんな自覚は全く無いのに。
びっくりした顔で目をぱちくりさせているマグナに、アメルは微笑みながら真正面に向き合う。
「本当に助かりました。何かお礼をしないと」
「そんな事しなくていい!当然の事だろう?それに…」
「それに?」
「………。お礼をするのは俺の方だから。何時も迷惑とか、心配とかかけてるし…」
ハヤトに聴いたプレゼント交換。
片道通行だから、『交換』とは言わないのかな?
なんとなく、そんな風に思って苦笑する。
何時も一緒にいてくれるアメルに、何かしたかった。
クリスマスという絶好の理由に託けて、行った事もないアクセサリー屋に何度も足を運んだ。
その成果は、ズボンのポケットに忍ばせている。
そんなマグナの苦しい言い訳を見透かしたように大きく頷き、一歩距離を詰めた。
ふわり、と栗色の髪から香るいい匂いに、マグナの思考が一瞬飛びそうになって、
慌てて距離を開けようとしたができない。
上目遣いで見上げられ、艶やかな唇は何事かの言葉を発する。
それを聴き逃さまい、と集中したマグナの耳に飛び込んできた科白。
「あたしも、有りますよ?貴方へのプレゼント」
「…え?」
「それもふたつ」
「……ええっ!?」
プレゼントの事は何も話していない筈なのに?
と言うか。
何時の間に知ったんだ?
しかも、ふたつ、ってなんだ?
完全に混乱しているマグナに、ひとつは今渡していいですか?と悪戯っぽく笑う。
やはり彼は何も知らないままなのだ、と思うと、それがとてつもなく可愛くて愛おしくて。
「…じゃあ、目を閉じてください」
「…???こ、こう?」
あまりに素直に従った姿に、大好きですよマグナ、と心の中で呟いて。
「メリークリスマス」
囁いて、その頬に唇を寄せて――――――
クリスマスアンケート第2位のマグアメフリーSSでした。
マグアメ、と言うか…寧ろアメマグ?(笑)
アメルさん、押せ押せです。
いやでも楽しかった。
マグナはハヤトからちょっと歪んだクリスマス像を植えつけられるのです(苦笑)
トウヤやアヤならちゃんとした知識を与えられただろうに、説明下手で根本的に
知識の足らないハヤトからだったらこの程度かと。
ちゃんと知るより、少し間違っていた方が可愛いんじゃないかと思い、誓約者はハヤト。
決定事項です。(笑)
まだ誓約者ルートでマグアメクリアしてないので、アメルさんが
「ご主人さま」という件は聞いていないのですが、
自分でこれ書いて俄然聴きたくなりました。(をい)
ホント、楽しかったです。
マグアメ、良いですね。
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