ぴいん、と張った冷たい空気。
何処までも広がる純白。


……無音の、世界。





冷たい風が露出した顔と手を刺す。
無意識に肩を竦め、ひとつだけ身震いをして。
はぁーっ、と息を吐き出してみる。
真っ白な息は細く長く棚引き、やがて消えていく。
足を踏み出すと、さくっ、という音と共に、僅かに身体が沈む。
きゅっ、ぎゅっ。
踏み締める微かな音と、ついて来る足音。
それが少しだけ楽しくて、意味も無く辺りを歩き回る。
時にはその場でくるり、と回ってみながら。


…そして、立ち止まった。





「クラレット!」
呼ばれて初めて彼女は顔を上げる。
まだ薄暗かった空が、今はこんなにも明るい。
走り回っていたのか。
その小さく開いた口から発せられる吐息は、とても大きく、速く、短い。
表情が少しだけ怒っている様な気もしたけど。
立ち上がった彼女は穏やかに微笑み返すだけ。





何時もなら、慌てて謝る彼女が在る筈なのに。
怒るタイミングも、口を挟むタイミングも忘れてしまう。
白い世界に独り佇む紅い衣装の彼女。
そのコントラストに。

そして。
儚く脆く、硝子細工の様な幻想的なこの世界に。
彼女だけが消えてしまう。
そんな恐れに声を呑まれて。





「見て下さい」
彼女は柔らかい笑みを零したまま、ゆったりと両手を広げる。
其処にはたくさんの小さな従者。
「あなたに教わった『ゆきだるま』と『ゆきうさぎ』です」
守るように彼女を取り囲む従者は、少し不恰好だけど、
ひとつひとつ丁寧に作られていて。





「……………君は…」
息を棚引かせ、ゆっくりと近付く。
そっと取った手は、真っ赤だけど酷く冷たい。
あまりの冷たさに、何より彼女が消えてしまわない様に。
繊手を強く握った。
「………???」
小首を傾げて見つめ返してくる瞳に見えたもの。


それは。



……気付かなかった。
すぐ傍まで、この手の中にまで来ていた、なんて。



「……春が近いのかな?」
嬉しくて笑みが零れる。
はっきりと自覚出来るほど。
「え?!」
きょとん、と瞬かせた、見上げて来る大きな瞳に映る自分は悦びに溢れていて。
「…何でもないよ?」
冷えた背に着ていた上着を掛けて跪き、彼女の可愛い従者に視線を落とした。
「うん。良く出来てるね」
その言葉に、彼女は会心の、朗らかな笑みを満面に湛えた。



無音の世界は笑い声に満ちて行く。





これは。
寒い寒い雪の日に。
暖かな訪れの予感を見つけた、ちょっとしたお話。








特にパートナーを想定していない作品、第一号です。
(基本ネタはハヤクラだったというのはこっそりナイショですが)
ちょっとトウヤの喋り方、というのを知らないんですが、これであまり違和感無いですか??
ハヤトもちょっと違いますし、ナツミさんぽいような気もします。
こういう情景、絵描きの方ならはっきり見えるでしょうか?
見えたなら是非、描いてください(をい)見たいです。
個人的に疑問なのが、どうしてこんなにたくさんの雪だるまを作ったのか。
書いていて良く解りませんでした。
…見てもらいたかったのかなぁ。喜んで欲しかったのかもしれませんね。
作ってる彼女の表情はとっても良く見えましたけど♪

それにしても誓約者を特定しない書き方は難しいけど楽しいですね。



20040101UP→20050208



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