以心伝心しよう。
心を開いて。





みーんみんみんみん、だとか。
しゃわしゃわしゃわ…だとか。
辺り一帯で蝉の合唱が聞こえる。

此処はレルムの村。
その外れ。
アメルのとっておきの場所。

稀に見る猛暑のゼラムから、村の再建の手伝い、と称して避暑に来たマグナとトリス。
その二人と付き添い…と言うか、殆ど強引に付いて来たネスティと共に、四人は今、森の中に居た。

さわさわ、と緩やかな風に揺れる枝葉。
其処から漏れる少し和らいだ日の光。
太い樹と樹の間、その根元に座っているマグナの頭の高さで揺れるハンモック。
心の涼になりますよ、とシオンがくれた風鈴がハンモックが揺れるたび、ちりりん、と微かで透き通る
音色を奏でていた。
そのハンモックに揺られながら、木漏れ日が差してくる空を見上げて、トリスが呟くと、傍らのマグナも
相槌を返す。

「むぅ〜…(やっぱ、暑いねぇ)」
「んー(そうだなぁ)」

ゼラムや村の中よりは遥かに涼しいとはいえ、暑さはじわり、と忍び寄ってくる。

「むー…(代わろっか?)」
「んん?(いいよ。寝てろって)
「ん(そうさせて貰うわ)」

まったりした会話(?)が続く。
マグナの側で、冷やして来た飲み物をグラスに注ぎながら、アメルはくすくすと笑い。
穏やかな時間を享受する三人とは裏腹に、一人だけこめかみに青筋を立てて、読んでいた分厚い本を
ばたん、と閉じた。

「さっきから聴いていれば君たちは!なんだ、その『むー』とか『んー』とか。
口が利けるのなら、まともな会話をしろ!?」

いきり立ったネスティを兄妹弟子はきょとん、と見上げて。
顔を見合わせる。

「…だって…」
「なあ…?」
「だって、なんだ?!」

怒気を強めたネスティに、二人はあっさりと答えた。
ステレオで。

「「だって。通じるし」」
「………………」

ごんっ。
ごつっ。

「あいったぁ〜!?」
「いってぇ〜?!」

ニブイ音の二連発に続いて、額を押さえて呻くトリスとマグナ。
しゅううぅぅ、と怒りのオーラを出すネスティと、二人の額に連続投下された本の角。
痛さで反撃の声も出ない二人にくるり、とネスティは踵を返す。

「ネスティさん。お茶はどうですか?」

ネスティの突然の行動に、僅かに驚いたアメルも、何時もの事ですね、と、すぐに元の笑顔に戻って
お茶を勧めるが、ネスティはあっさりその誘いを蹴った。

「…すまないが、そんな気分じゃない。先に帰ってるよ、アメル。その馬鹿たちを頼む」
「…はい。お家にもお茶を残していますから、良かったらそれを飲んでくださいね」
「……助かるよ」

振り返りもせずに行ってしまったネスティを見送って。
アメルはそっと、聖女の癒しを二人に施す。

「大丈夫ですか?お二人とも」
「「ありがと」」

まだ痛む気がする額を擦りながら、二人は同時にぼやく。

「…ったく、なんなのよぉ。ネスってば」
「いきなり怒り出して。俺たち何かしたっけ?」

その、よく似た…似すぎている行動を優しく見守りながら、冷たさで汗を掻いたグラスを差し出す。

「どうぞ?」
「「あ、ありがと」」

これまた、全く同じタイミング、同じ仕草でグラスを受け取った二人に、アメルは堪えきれず笑い出す。

「な、なに?アメル??」
「ど、どうしたんだよ?」
「……いえ…」

僅かに浮かんだ涙を指で掬い取って。

「あたしは…ネスティさんの気持ちがよく解るなぁって」
「「???」」
「羨ましいんですよ。ネスティさんもあたしも。
お二人がそんな風に、何も言わなくても解り合えている事が」
「「……そっかな?」」

小首を傾げてトリスは言う。

「あたしは、マグナやアメルが羨ましいけどな。戦いの時なんて特にアメルとネスは一緒じゃない?
息がぴったりだな、っていっつも思ってるのよ?」

大きく頷いて、マグナは言う。

「俺も、トリスやネスが羨ましい、って思ってるよ。アメルの前じゃあのネスだって笑うからさ。
アメルを独り占めにされている気がする…」

肩を竦めて、アメルが答える。

「じゃあ、あたしたちは、お互いにお互いが羨ましいんですね?」
「…そうね」
「そうなんだろうなぁ」

顔を見合わせて、溜め息と共に出た苦笑は、やがて大きな笑い声に変わる。



ひとしきり笑って。
じゃあ、あたしは。とアメルが切り出した。

「ネスティさんには悪いけど。あたしもお二人の仲間に入れてください」

 その、緩やかだけど、愛しくて堪らない会話の中に。

トリスとマグナは一瞬視線だけを合わして、大きく頷く。

「ん!(勿論よ。ねぇ、マグナ?)」
「うん!(ああ、勿論さ)」

その会心の笑みに、アメルも至上の笑みを零した。

「はい!!(ありがとうございます)」




気だるい真夏の。
何てことない、お話。








ENIGMA±∞さまに捧げていたものですが、訳有って此方に移させて頂きました。
某Hさまから基本のネタを頂き、それをきいろなりにアレンジしたものです。
和みまくっているマグトリ+アメルと何だかとっても面白くない兄弟子、の風景が見えたら良いのですが。
兄弟子は仲間外れのような扱いですが、そうじゃないよ、ネス。
君が4人の中で一番常識人なんだ(をい)そしてちょっぽり怒りんぼなだけなんだ(フォローになってない)

マグトリ+ネスアメと表記はしているものの、心の中ではマグアメ+ネストリのつもりでもあります。
つもり…つもり…
マグアメ+ネストリにも見えたらいいなぁ…(呟)

BGMはその昔(?)NHK「みんなの歌」で大ヒットした「以心伝心しよう」から。
歌は大城光恵さんだった…筈。
大好きな歌に乗せて書いてみました。
どうでしょう??


20040811→20041020UP



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