傍に居るだけで、心も身体も空気さえもが温かくなる、満ち足りた時間。





     テーブルに肘を付き、掌に顎を乗せ、青紫の瞳は穏やかに細まる。

     「………ナ?マグナ、マグナ!?」

     何度も何度も呼ばれた後で、彼はようやく聞いている素振りを返す。

     「もぉ、聞いていましたか?」

     あまりの反応の悪さに、少しだけ頬を膨らませ、唇を尖らせても、
     髪と同じ栗色の瞳は表情に反して心配そうに影を落としている。

     「………うん」

     ゆっくりと微笑みを作る。

     「どうしたんですか?何処か、身体の調子でも悪いんですか?」

      笑顔が一番いい。

     何時だって笑っていて欲しいと、心から願うけれど。
     こんな怒った顔も心配してくれる顔も、言い表せないほど大切。
     どんな風にも形容しきれない。
     まったく足りない。
     言葉という形にすら成らないほど。

     「……ううん。何でもないよ。ただ……」
     「ただ?」

     夢でも見ているかのような穏やかな彼の微笑みに、少しだけ鼓動を速めながら
     聞いたその答えに、見る間に頬までも赤く染め上げる。

     「君が俺の事を『マグナ』って呼び捨てにしてくれているのが、
     凄く嬉しいなぁ、って思っていただけだよ」

      聞いていて、とても気持ちいいんだ。

     思った事を正直に話す。
     彼にしてみれば、本当にただそれだけの事。
     そういう性格であることは、重々承知している。
     嘘偽りなんか存在しない。

     だからこそ。

     こんなにも、心が速る。
     嬉しくて、温かくて、ちょっとだけ恥ずかしくて。

     「………うん」
     「だから、さ……」

     それでも流石に少し恥ずかしかったのか、指でこりこりと頬を掻きながら、
     今度は照れ臭そうに笑った。

     優しさは絶やさないまま。

     「もう少し、このままでいさせてくれるかな?」
     「………はい」

     至宝ともいえる極上の微笑みを目の当たりにして、彼は再び頬杖を付く。





     言葉を交わさなくとも心満たされる。
     そんな至福のひとときの事。









「穏やかに、緩やかに」のマグアメ版と言うか、アップは遅かったものの、出来上がりは
こっちの方が早かったので、向こうが「tender voice」のハヤクラ版と呼ぶべきですか…

まぁ、どちらにしろハヤクラもマグアメもこんな雰囲気が好きなのには変わり無いですが。
時間も空気もゆっくり流れて。
言葉なんか要らない。君がそこに居てくれさえすれば。
そんな感じで。
この二組が一緒に居たら、何とものんびりまったりな昼下がりの風景が見られる事でしょうね。
その時は当然蒼空の下、風に揺れてさわさわと音を立てて、緑の広がるアルク川の土手でお願いします。
この二組による昼寝話は今でも憧れですね。やっぱり。



20031111UP


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