なあ、クラレット」

フリーバトル後。

仲間達は、思い思いに休憩を取っている。
このメンバーのリーダーであるハヤトも、クラレットの横に来ると、草原に足を投げ出し、
後ろ手を付いた格好で座り込んだ。

 やっぱり此処が一番居心地が良いな。

漠然と、しかし本心からそう思う。
仲間達に聞かれたら、四方八方からツッコミを喰らいそうな台詞は音に成る事は無い。

「どうされました?ハヤト」

気持ちの良い、澄んだ声。

「ああうん。さっきの戦いの時に思ったんだけどさ」
「はい」
「君は眼力を使えなかったはずだよな。何時の間に覚えたんだ?」

先陣切って召喚術を撃つ際に、近寄ってくるはぐれ達から身を守っていたのは、確かにその力。
こんなにおっとりやんわりな彼女には、はっきり言って似合わないな、とか、どんな顔をしてるのか気になるな、
とか思った事は敢えて言わない。

「何時の間に、と言われても…私も習得した覚えは特に無いのですが……」

小首を傾げて、暫し何かを考えていたクラレットは、やがてハヤトの顔を見、得心した様に頷いた。

「…でもそうですね。習得してしまった心当たりなら、有りますよ?」
「心当たり?」

彼女の微笑みが何時もとは違う、ほんの少し悪戯っぽさが含まれた事に、ハヤトはまだ気付かない。

「ええ」
「なんだい、それは」

 一日の殆どの時間を彼女と共に費やしているのに、何かそんなきっかけが有っただろうか?

さっぱり解っていないハヤトに、クラレットは最上の笑みを零しながら、最凶の毒を吐く。

「何時も貴方を怒っていたから、ではないですか?」
「ええっ!?」
「怒り癖がついてしまったのなら、そういう可能性も有り得ますよね?」
「………まさか、また…」
「昔は心配したり、怒ったり…そんな風に強く感情を表す事自体、無かったですから」
「……俺の所為、なのか?」
「………どうでしょう?」

彼女の笑みは、確実に貴方の所為だ、と言っている。

 確かに此処に来てから覚えてしまったのなら、そういう可能性も有るかもしれない。

そう思い至って、自ら反論する余地を潰してしまったハヤトは、決まり悪そうにがりがりと頭を掻いた。

「…俺の所為、なのかなぁ。やっぱり」

戦いに於いて、彼の最大の長所である積極性が仇になる事もしばしば。
その度に、三人の騎士にちくりと皮肉られ、親友にからかわれ、そして彼女に小言を受け賜る。

見慣れた黄金パターン。

何やらぶつぶつと自分の行動を思い返していたハヤトは、首を竦めて頭を下げた。

「…ごめんなさい」

眼力の能力が悪いとは思わないが、彼女には似合わない、と思った事柄に、
自分が起因しているなんて思いもしなかった。

「…いいえ。どういたしまして」

くすくすと笑うクラレットは非常に楽しそう。














「……な、情けねぇ…」

誰もが喉まで出掛かった台詞を代弁したのはガゼル。

「女の尻に敷かれやがってよぉ…」

思い思いに休んでいた筈の仲間達。
そのほぼ総ての視線が、今や中心で注目の二人、ハヤトとクラレットに注がれていた。
何人たりとも入り込む隙の無い、出来上がった空間の外から。
当然、気付く事の無い二人へと。

 お前が言える事じゃないだろう?と前置きして、エドスが闊達に笑う。

「んだとぉ!?」
「しかし、なんだな。あの光景を見ていると、到底エルゴの王には見えないな」
「伝説の誓約者と言えど、傍らの護界召喚師には手も足も出ない、というわけか」
「クラレットはあいつの召喚主なんだろ。だから余計に、じゃないのか?」

レイドやローカスの推測をアカネが見事に両断する。

「ばっかだねぇ。あの二人がそんなに複雑なわけ無いじゃん!」

 こんな事も解んないの?

へへへん、と不敵に笑うアカネに、ならばどうしてだ、とレイドが問った。
そして、彼女のあまりに簡潔な答えに、誰もが一瞬声を無くし、それから起きる大爆笑。

「あっはっは!そりゃ、確かにそうかもしれんなぁ」
「でしょ、でしょ?」
「な、なんなんだ……?」
「……さあ?」

突如上がった歓声に、訳が解らずきょとん、と顔を見合わせた誓約者と護界召喚師に、
アカネはぐっ、と親指を差し出して見せた。
可愛らしく、ウインクなどしながら。

「「……………???」」

「やっぱ、愛でしょ、愛!」








「勝者クラレット!」が書きたかった、と以前書いていましたが、
なんか、結構勝ってますよね、ウチのクラレットさん(笑)
何時と違うのは、ちょっといじわるが混じっている箇所でしょうか。
天然or呑気な彼女が多いので、こんな話は案外と珍しいかも。
なんだか、ここではくすくすと得意げに微笑んでそうです。

ハヤトは相変わらず、クラレットさんに無条件で弱いですね。
素直さであり、可愛さであり、大らかさであり、優しさなのかな、と思います。
こうも無条件に白旗揚げるから、尻に敷かれる、と思われるんですよね。
彼女に弱いハヤト、そして彼女の手を躊躇い無く、力強く引くハヤト。
私の中のハヤトはこういうイメージが強いですね。

しかし…
くどいですが、「眼力クラレットさん」…どんなんだろう。
似合わなそう、でも怖そう(苦笑)


20030628UP




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