「行くぞ!」
「…来いっ!!」
左足を少し引き、綺麗な正眼で構えるハヤト。
腕をだらりと下げて、切っ先を上へと向ける独特の構えをしたマグナ。
そのマグナの剣先が、ピクリ、と動いた。
次の瞬間。
ぎぃん。
ハヤトの頭上で火花が散る。
(……疾い!)
びりびりと腕に伝わる衝撃に耐えて、剣を弾くとすかさず剣を振り下ろす。
ぎん。
かぁん。
がつっ。
きぃん。
大剣使いの二人の剣戟は乱打こそ無いが、一撃が強く、重い。
掬い上げるような一撃を叩き落され、バランスの崩れたマグナに、真上からの最強の一撃。
「――――っ!!」
その強烈な一閃に、身体を逃がしながら右手だけで支えていたジェネレイターを無意識に跳ね上げる。
運良くビリオンデスの横腹に命中し、怯んだハヤトからマグナは慌てて距離を取った。
「…まさか、あれを防がれるとは思わなかったよ。強くなったじゃないか、マグナ」
「……今のは本気で危なかったぞ!?」
「手抜きは嫌、なんだろ?」
構え直したハヤトに、肩で大きく息をしながらマグナはハヤトを見返す。
あれだけの激しい戦いなのに、ハヤトの方は殆ど息が乱れていない。
力もスピードもスタミナも、まだまだハヤトの方が勝っている。
悔しさに唇を噛みしめて、マグナは吼えた。
「まだまだぁっ!!」
「いい加減にしろっ!」
自分たち以外の誰かの声が割り込んで来たのを耳で感知したのとほぼ同時に、巨大な魔力の塊が落ちて来た。
「ダブルインパクト!」
どおぉおおん!
腹に響く重々しい衝撃音と渦巻く砂煙。
「……痛ってぇなあ。なにすんだよ、ネス!?」
もうもうと立ち上る煙の中で、けほけほと咳き込む音と、明らかな不満を漏らす声に、
星空の機神を打ち込んだ張本人、ネスティは顔を顰めた。
「ダブルインパクトを喰らって、痛い、で済ますのか。君は」
それはもう、驚きと言うより、呆れ。
煙が晴れて、ネスティが見たのは、巨大な鉄拳が当たった頭部を擦るマグナと、同じくそれを真っ二つにしたハヤトの姿。
(……なんて奴らだ…Aクラスの召喚術だぞ?)
唖然とするネスティを余所に、戦いを邪魔されて憤慨するマグナが詰め寄った。
「ネス!なんで俺たちの邪魔をするんだよ!?」
「君たちこそ!なんでこんな危ない真似をしているんだ?!」
「それは…」
一瞬目的を忘れていたマグナは、思い出してぽん、と手を叩く。
「だって。ハヤトの祭りなんだろ?俺たちの戦いは『めーんいべんと』になるってレナードが…」
「なあ」
近寄って来たハヤトが相槌を打つ。
「…バカか、君たちは。メインになるわけ無いだろう」
「「誓約者と調律者の戦いなら、お客さんが呼べるって言うからさ…」」
「…騙されてる、って思わないのか?大体、客、って誰の事だ」
「「……さあ?」」
すっかり元の調子に戻った二人は、剣を右手に持ったまま腕を組んで首を傾げる。
その全く同じ仕草、同じ表情に、これが調律者と誓約者なのか、とネスティは内心で呟き、首を横に振った。
「…君たちの言うとおり、君たちの戦いがメーンイベントに匹敵する事は、僕も認めよう。
だが」
ちらり、と此方に冷ややかな視線を投げつけて。
「書く奴があれでは、な。折角の誓約者と調律者の戦いも味気無くなるというものだ」
「……書く奴?」
「なんだ、それ?」
「……君たちは知らなくても良いことだ。それより大事な事が君たちには有るからな」
「「…大事な事?」」
「見てみろ」
散々たる惨状。
木は倒れ、草花は刈り取られ、数十センチから一メートルまでのクレーターがあちこちに出来ている。
「ありゃ…」
「やり過ぎちまったかな?」
「やり過ぎだと解っているのなら、即刻元の状態に戻せ!」
「「えーー〜っ!?」」
「ええ、じゃない。当然の事だろう。それが終わるまでは、家の敷居を跨がせないからな。そのつもりでいろ」
「「……………」」
(俺たちの所為だけじゃないとも思うんだけど)
(同感…)
(でも、そんな事言ったらまた怒られそうだし…)
(同感…)
はあっ。
途方にくれた顔でお互いを見て、溜息をひとつ。
それから、縋るように、ネスティの剣幕に何も言えずに彼の後ろに従っていたお互いのパートナーに助けを求めた。
「…アメルぅ」
「…クラレット…?」
だが、すみません、と諦め顔で首を横に振り、綺麗に口を揃えた。
「「…頑張ってください」」
「「そんなぁ…」」
明らかに肩を落として、ショボーンという効果音付きで、とぼとぼと素直に作業に入った二人を確認して、
避難していた仲間たちが出てくる。
「まったく。あいつらは細っこい身体で力が強えからな。手に追えねぇぜ」
「しかも、無意識に魔力も飛ばしてるんだもん。危ないったら仕方ないわ」
「まあ、いいじゃないか。俺様はそれなりに楽しかったぜ」
「レナード!大体貴方が彼らに無茶を吹き込むから…!」
ネスティの冷たい視線をものともせず、懐から出した煙草に火を点けた。
「…ふぅ〜。まあ、なんだ。メーンか前座かはあいつらが決める事だ。俺たちの仕事はこれで終いよ」
薄く歯を出して笑うと、人差し指と親指を立て、誰も居ない方向へと向けた。
「次は、お前さんたちの番、だな」
「ブイエス」シリーズ7作目(笑)
某所で8月に行なわれていたハヤト生誕祭に投稿させて頂いたもの。
「ハヤトvsマグナ」は書いてみたかったんですよね。
オフラインで書いた時も不完全燃焼だったので、ちょっと満足。
ウチではハヤトの方が強いです。なんたって誓約者様ですから!
こそりマグアメでハヤクラなのは勿論きいろの趣味ですが。
男性同士の組み合わせはそういえば、これが初めてですね(笑)
20040808→20040915UP
Ss Top