「まったく、君って奴は!何度言ったら解るんだ?!聴いているのか、トリス?!」
「私がこう言うのは、初めてではないですよね?ナツミ」「一人で先走らず、仲間達との協調性を考えろ、と僕は昨日も言ったはずだが?」
「貴女が強いのは認めます。しかし、あまりにも独断専行が過ぎますね」「それで、自分が怪我でもした時はどうするつもりだ?」
「それで、他の皆さんにご迷惑をお掛けしてどうするのですか?」「罰として…そうだな。『みんなと協調します』を3000回、だ」
「そうですね。今日のおやつと夕食を抜けば、少しは反省してくれますか?」「「ええええぇぇーーーっっ?!」」
激しいブーイングを背に、二人は踵を返す。
がちゃ。ぱたん。
「「ふぅ」」
扉に凭れて深い溜息をひとつ。
そして、どちらからともなく、同じように隣の部屋から出てきた相手に視線を送る。「君の声が聞こえたよ。君も苦労しているようだな」
扉から背を離し、肩を竦めて苦笑したクラレットへ近づくと、彼女は大きく頷いた。
「はい。お互い様、みたいですね」
「まったくだ」二人は肩を並べて歩き出す。
「誓約者といえば、もっと思慮深く、落ち着いた人物かと思い込んでいたが…トリスに良く似ているな」
「…そう、ですね。返す言葉も在りません。もう少し、落ち着いて行動して欲しいものです」
「ああ、まったくだ。もう子供ではないのだから、自分の行動のひとつひとつがどれほどの
影響を与えてしまうのか、それを自覚してもらわない事には、何時までも僕は彼女のお守りだ」
「彼女と共に在り、彼女とこの世界を見守る事が、護界召喚師としての私の役割。
ですが、こんな事が何時までも続くと、少し不安になります」「「もっと、しっかりしてもらわないと」」
「まったくトリスときたら、無鉄砲で考え無しで」
「その上、単独で敵陣の中に踏み込んでしまいますし」
「そのくせ、召喚術に頼る事をあまりせずに」
「一対多数という危機に陥る事もしばしばで」「「どれだけ私(僕)たちが胃を痛めているか分かってくれてるのでしょうか(のだろうか)」」
「……本当に、良く似ているんだな」
「…そうですね…」そう言ってまた溜息をひとつ。
「調律者といえば、エルゴの王が現れるまでは、最強の召喚師の名を欲しい儘にしていた一族。
誓約者といえば、その魔力においては右に出る者がいない、正に最強の召喚師。
その血と意思を受け継ぐ者が、ああだとはな。解らないものだ」
「でも、二人ともその力を持つ資質は確かに在る、と私は思います。
重要なのは、力そのものではなく、それを扱う心、なのですから」
「…それは確かに同感だな」
「それに、私は彼女のあの性格にとても安堵を覚えています。
どんなに苦しい時にでも、彼女は笑って私の背を押してくれました。
それにどんなに救われたでしょう…」
「……ああ。分かるよ」あの存在がどれだけ重要か。
そんな事は誰より自分が一番知っている。居なければ不安になるほどに。
何時も視線で追うほどに。
自分を形作った、と言い切れるほどに。「…結局僕達は、あの存在に依存しきっている、という事だ。
彼女らには聴かせられない、何とも情け無い話だがな」
「彼女らは彼女らだからこそ、私達は叱る事も笑う事も出来るのでしょう…」「「本当に」」
「ねえ、どうしよっか?」出て行ったと思っていたパートナーがすぐ其処で立ち止まり長話をしている。
貶されている様な、褒められている様な、なんともむず痒い内容に、ほんの少し頬を赤らめて、
扉から顔だけを覗かせたトリスは、同じように顔だけ出しているナツミにそっと問った。「どうしよっか…って…あたしが聴きたいよ」
ちらり、と視線を細い背に移す、彼女の顔もほんのり赤い。
「なんか、出て行きづらいよね」
「聴いてた事知られたら、罰が余計に増えそうだよ…あたし」
「…同感」
「…と言うか、ネスにこんな事言われちゃうなんて…明日は雨か雪かなぁ?」
「槍だったりして?」
「あはは…は。笑え、ないよ。それ」見合わせた互いの顔は、言葉とは裏腹に緩んでいて。
唇に人差し指を当て、小さく頷き合ってから、そっとそれぞれの扉を閉める。「「だから、あなたと離れられないんだってば」」
祭り開催初日に行なったチャットで出たネタでした。
ネスティとクラレットさんの軽妙で息の合った、尚且つハモりまくりな会話が凄く楽しかった話です。
ウケも良くて、完成度とお気に入り度も我ながらかなり高くなりました。
ネスティとなら、愚痴と感謝が交互に出る、主人公たちには何ともむず痒い内容でしょうね(笑)
20040207UP
←其のなな Fes Top 其のきゅう→