確かにちょっと違う気はしたんだよね。

「アメルーっ?」

月が雲に隠れてて、はっきりと見えなかったけど。
多分そうだと思って、見えた影にあたしは声を掛けた。
でも、返って来たのはあの何時もの声じゃなくて、

「……トリス、さん?」

もっと落ち着いた声だった。

「え、…と。クラレット?」
「はい」

月明かりの中、見えたのは確かにクラレット。

「あ、はは。ゴメン。やっぱり間違っちゃった」
「…やっぱり?」

近くに行ったあたしに、不思議そうな顔で首を傾げたクラレットは、それでも何も言わず、他の事を聞いてきた。

「すみません。アメルさんと此方で約束をしていたのですね」

そう言って、その場を離れようとした彼女を、あたしは慌てて引き止める。

「違う、違う。クラレットこそ、此処でナツミと待ち合わせなの?」
「いいえ。そういうわけでは…」
「ふぅん…」

 そのまま、ちょっと沈黙。
まだ話し慣れていないから、何を言おうかと迷ってたあたしに、クラレットの方が先に切り出した。

「今日、改めて貴女の戦い方を拝見しました。確かにナツミに、良く似ています」
「へ…?」

 確かに今日は、レベルを上げるために無限回廊に行ったけど。
いきなりそんな事を言われて理由が分からず、きょとん、としてるあたしに、クラレットはふわり、と笑う。

 あ、すっごい可愛い。

「猪突猛進的に前に出るところや、自分が傷つくのを厭わない考え方、なんかは特にそうですね」

思わず見惚れたあたしに、ネスとおんなじくらいキツイ言葉が降って来て、ちょっと前言撤回したくなる。

「…むぅ。それって褒めてないよね」
「褒め言葉には聞こえにくいですね」
「………む」

 やっぱ、キツイよ、クラレットってば。
たまにネスに叱られないと思ったら、こんなところで叱られちゃったよ…
ナツミもこんな事、言われてるのかなぁ。
肩を落としてヘコんだあたしを真っ直ぐに見据えて、お聞きしてもいいですか、と聞いてきた。

「なに?」

また叱られるんじゃないかと頭の隅で思いながら、聞いたあたしに、ほんの少し躊躇ってクラレットは言う。

「貴女やナツミは…私やアメルさんがどんな気持ちで後ろからその背中を見ているか…ご存知ですか?」
「…は?」

間抜けな声が響く。
意味は分かったけど、答えられないあたしに、痛いほど真摯な顔でこうも言った。

「傷つかないで欲しい。一人で行かないで欲しい。……置いて、行かないで…」
「…クラ、レット……?」
「…………すみません。余計な事を言いました」
「余計じゃないよ。そうだよね。確かにあたし、アメルたちが後ろからあたしをどう見てるか、なんて考えた事、無かった…」

 あたしはまだ満月に満たない月を見上げる。

「あたしとナツミの戦う理由は違うと思うな。クラレットが言うように戦い方は似てるかもしれないけど。
…調律者が何をやったか、貴女も知ってるよね?あたしが戦う理由の半分は…」
「…『罪悪感』、ですか?」
「……っ!?」

慌ててクラレットに視線を移すと、彼女が悲しそうに微笑んでいた。

「それを言うなら、私も同じですから」
「…そっか。そうかもね」

あたしたちを取り巻く因縁はあまりに深い。

「…でも、だからこそ。頑張らなくっちゃ。断ち切るために、さ」

 あたしは少し冷たいクラレットの手を取って笑う。
あたしとナツミが似ているのは、自分でも感じていたけど。
クラレットとも似てたんだなぁ。

「…そう、ですね」

そう言って、クラレットも安心したように笑ってくれた。
 さっきとは少し違う、大人びた感じで。

「それじゃ、そろそろ中に入ろっか?」
「はい…」

歩き出したあたしの背に、あの…、と静かな声が当たって、あたしは振り返る。

「なぁに?」
「さっき、私とアメルさんを間違えて『やっぱり』と仰ってましたけど。どうして、ですか?」
「あ、そのこと…」

 う〜ん。

あたしは頭を掻きながら、舌をぺろり、と出して肩を竦めた。

「サプレスの魔力を最初に感じたのよ。それから、静かな気配と見た感じも少し似てるから。クラレットの気配、って会った頃のアメルに似てたし。
ちょっと違うな、とは思ってたんだ。…ゴメン、間違っちゃって」
「…そう、ですか」

正直に答えると、何故か、少し嬉しそうに笑ってくれたけど、あたしに理由なんか分かるわけなくて。
 
 明日、ナツミに聞いてみよっかな。

「…クラレットってさ、言う事はネスみたいにキツイけど、笑うと可愛いよね」

 アメルとネスを足して二で割ったみたい。

そう言うと、すごくびっくりして。
それから一番最初に見た顔で笑ってくれた。

 う、ん。
たまにはこんな夜会話もいいよね。
ナツミとアメルには悪いけど、さ。




トリスとならどんな夜会話が成り立つのだろう、と思って書いたもの。
全く違うようで、何処かしら似ている二人なのだ、と書きながら知りました。
この後、二人が居ない事に気付いて探し回るナツミさんとアメルさんにより、
「何を話してたの!?」と問い詰められるトリスが居そうです…(合掌)


20040205UP


のろく   es op   のはち