はぁ。

もう、とてもではないけど数え切れない数の溜息。
朝早く着いたこの会場にも、夕闇が迫る時間。
真っ赤に燃える空を、ぼう、っと見上げて。
手持ち無沙汰だった手は、朝からずっと使ったいた為、ふやけてしまった紙コップを握り潰す。

「まだかなぁ」
「…もう、そろそろじゃないかな?」

やっぱりもう数え切れないほど呟かれたあどけない顔の少年に、同い年とは思えない
ほど落ち着いた精悍な少年が静かに答えた。

「大体、そういうのなら家で待っていれば良かったのに」
「何処で待ってたって同じだろー?」
「なら、そういう事は言わないことだね」
「う…っ」

問答無用で正論で叩かれ、言い返す力の無い少年は、分かったよ、と口を噤む。

今日は自分達の大切な人のお祭り。
何故だか中に入る事の出来ない二人の代わりに、彼らの悪友である快活な少女がそれを買って出てくれた。

 …それはいいんだけど。

中で無事にエスコート出来ているのか、それが気がかりでならない。
口にはしないけど、隣に居る親友もそうだろう。
あの性格を知ってるだけに不安でたまらない。

「落ち着けよ。子供じゃ在るまいし」
「悪かったな」
「大丈夫さ。彼女なら」
「随分信用してるな」
「まあ、同じクラスだったしね」

ふ、と笑い、間仕切りで覆われた会場に視線を移して。

「それにしても、本当に大きな祭りだね」
「そうだな。こんな大きな祭りだったなんて俺もびっくりだよ。
凄いよな。彼女はこの祭りの主役、って言うんだからさ」
「ああ、そうだね」
「どんな事、やってるんだろう?」
「さあ?」
「…素っ気無い奴だな」
「君だって同じだろう?僕達が願うのは…」

「「楽しんでくれたら、いい」」

あの、とびきりの笑顔で。
いま、それを独占してるのが、アイツというのが微妙に悔しいけど。

「あ、来たみたいだね」

言われて、真正面に目を凝らすと、確かに彼女と悪友の姿。
二人は同時に駆け出して――。
同時に彼女の前へと辿りつく。

「おかえり」
「おつかれ」

先程までのけだるい表情は何処へやら。
彼女を前にした途端、生き生きとし始めた少年二人の姿に、悪友も苦笑して首を竦めた。

「中はどうだった?」
「楽しかったかい?」

同時に紡ぎ出される質問。
どうにも似たような質問。

答えるために、彼女は笑む。
それだけで内容が理解出来るほどの、最高の微笑みで。
今日一日の退屈な時間すら吹き飛ばす至上の微笑みで。

「はい!とっても」




祭りの最後の最後。
ぎりぎりになって足掻いて書いた、祭りに出れなかったハヤトとトウヤのエピソード。
(もっとぎりぎりまで書かれていらっしゃった方も居られましたね。スゴイ)
トウヤ未プレイなので、話し方が些かおかしかったらすみません。
やっぱりクラレットさんが大好きな二人と、悪友(笑)への信頼が出ていれば、と。
オマケ的な話ではありますが、そうで有ればいいな、と言う願いを込めて。


20040215UP


の十九   es op