2話
アメル:どうして…こんなことに…
トリス:今はなにも考えちゃいけないわ、アメル
疲れた身体で考えても、よくないことしか浮かばないから
アメル:でも…っ
トリス:不安なのはわかる けど、わたしたちはロッカたちと約束したのよ
あなたを守るって‥リューグやおじいさんはそのためにあの場に残ってくれたのよ
…信じましょう?「迎えに行く」って言葉を
そして、信じて あたしたちが味方ってことを…
アメル:…うん
−守らなくちゃこの子を… おじいさんたちとの約束を…
3話
アメル:……
トリス:元気を出して、アメル
こうなったのはあなたのせいじゃない
二人には、二人なりの考えがあって、それで別行動をとっただけよ
アメル:それでも、やっぱりさみしいですよ…
トリス:…そうね
アメル:ロッカもリューグも昔からよく言い争っていたけれど
こんなことがなければ別々に行動したりはしなかったと思います
私のせいだって思うのが間違いなのはわかってます でも…
トリス:アメル…
アメル:帰ってきてほしい それが無理ならせめて
無事でいてほしいです 無事で…
−アメルの心配 ちゃんと伝わっているはずよ…リューグ(ロッカ)?−
4話
トリス:今日のアメルを見てて なんか、あたしびっくりしちゃった
アメル:びっくりですか?
トリス:ええ、驚いた おとなしそうに見えて意外と行動力あるし
言いたいことがあればちゃんと口に出して言っちゃうんだもの
アメル:ふふふっ、でもトリスさんは知らなかっただけで
あたしの性格って もともとあんな感じなんですよ?
トリス:そうなの!?
アメル:聖女さまって呼ばれるようになってからはそれらしくしようって
ちょっとだけ…ネコ、かぶってたの
幻滅しちゃいました?
トリス:そ、そんなことないわ ずっといいと思う
アメル:村が襲われてから ずっとあたし暗い顔ばかりしていて
トリスさんたちに心配かけっ放しでしたよね?
でも、いつまでも落ちこんでたらダメだって思ったんです だから…
トリス:いいんじゃないの 前向きで…
あたしはすくなくとも今日一日で、アメルの色んな一面が見れて楽しかったもの
アメル:あ…
−びっくりしたのだって うれしい驚きって感じだったもんね…−
5話
アメル:どうしてあの時、彼はあのままあたしたちを攻撃してこなかったんでしょうか?
トリス:ミモザ先輩が言ってたわね?
もし、あの場で戦いを仕掛けたなら 蒼の派閥への敵対行為とみなされてしまう
だから、手が出せなかったのよ
アメル:でも、おかしいですよ
あの人たちは平気で村ひとつ焼き払える力があるんですよ?
あの場であたしたち全員を殺すことくらいできたはずです! そうすれば…
派閥に見つかる前に目的を果たすことができたはずです…
トリス:……
アメル:あたし、なんだかわからなくなっています
厳しい言い方でしたが あの人は、部下たちの身を案じていました
そんな優しさをもっている人が、レルムの村を平然と焼き払ったなんて…
どうして、そんなことができてしまうんでしょうか!?
あたしには…わかりません…
トリス:アメル…
−黒騎士を動かしているものって、いったいどんな感情なのかな?−
6話
アメル:踏み出したんですよね あたしたち…
周りに流されないよう 今いる場所を守るだけの毎日から
自分たちの意思で初めて一歩、前に進みだしたんですよね?
トリス:ええ、そうよ
そしてそのきっかけを作ったのは、あなたよ
アメル:正直、まだこわいです あたし…
自分の判断が本当に正しかったのかどうか不安になります
トリス:誰だって、それは同じよ
未来を見ることなんて誰にもできないもの
だから、人は悩んだり失敗もするのよ
けどさ…
それを恐れていたらいつまでたっても人は
同じ場所にしかいられなくなっちゃう
ギブソン先輩が言ってたの
自分の気持ちに正直になって決めたことが その人にとっての真実なんだって
アメル:自分の、気持ち…
トリス:こわいかもしれない 不安かもしれない だけど、アメルは
後悔はしていないんでしょう?
アメル:してません!
トリス:ええ、あたしも同じ
後悔はしちゃいない
どれだけ失敗しても、その気持ちを忘れさえしなければ きっと、乗り越えていけるって思うの
−誰だって、きっと そうやって生きていくものなんだから…−
7話
アメル:下町の人たちが みんな無事で、本当によかったですよね?
トリス:そうね、壊れた家もすぐに元に修理されるみたいだし
アメル:砲撃が始まった時 あたし、すごく不安になったんです
レルムの村みたいなことになっていたらどうしようって
トリス:けど、戻ってきたら みんな拍手で出迎えてくれたのよねぇ
アメル:ええ、たくさんの人が「よくやった」ってほめてくれて
本当にあったかい人ばかりで…
トリス:なにもかも、きちんと片づいたら…
また、みんなでここに来ましょうよ?
アメル:ええ、絶対に…約束ですからね?
−ささやかだけど 親切にしてもらったみんなへの恩返しにはなったかな…?−
8話
トリス:こんなことろにいたの アメル…
アメル:トリスさん
トリス:熱があるのに こんな場所で夜風にあたったらダメよ
アメル:……
あたし、どうしてあんなことができてしまったんでしょう?
トリス:え…?
アメル:操られている人たちの心が、触れてもいないのに流れこんできて
それがかわいそうで
頭の中が真っ白になったと思ったらあんなことに…
トリス:……
アメル:なんだか不安なんです あたし…
自分がどんどん、違う存在に変わっていってしまうみたいで
すごく、こわい…
トリス:気にしちゃダメよ
今日のことは、状況が普通じゃなかったのよ
だから、あんなことが起こっただけだよ
あたしから見てアメルはアメルのままよ
なにも変わってなんかいないわよ
アメル:……
トリス:身体が弱ってるから気持ちも弱くなってるだけ
さあ 戻りましょう?
−なにも変わってなんかいない変わるはずないじゃない…
9話
トリス:ケイナのおかげでなんとか、あの場はおさまったけど
(結局、アメルとはあれっきり話せずじまいか…)
仕方がないわよね さすがに…
……
だいじょうぶよね?
明日になったら きっとまた、いつもみたいに笑顔でおはよう、っていってくれるよね?
きっと…
−そうだよね…アメル…−
10話
アメル:結界があたしの力で壊れてしまう瞬間 あの時、あたしは感じたんです
トリスさんと出会った時に感じたのと同じ、懐かしいなにかを…
トリス:アメル…
アメル:あたしは、あの場所を知っていたんです!?
そんなはずはないのに知ってたんですっ!
これってどういうことなんでしょうか?
あたし…おかしくなってしまいそう…
トリス:あたしにもわからない けどね、アメル
あたしもね、あの森でなんだか心がざわめく感じがしたのよ
アメル:えっ?
トリス:嘘なんかじゃないわ
聞きおぼえのない言葉が頭の中で渦をまいて
自分が自分でなくなるみたいで、とてもこわかった…
アメル:あなたもそんな風に…
トリス:こんなこと言っても慰めにもならないかもしれないけど
アメルが感じたことは貴女だけが感じたものなんかじゃないわ
ここにこうしてあたしがいるんだから
アメル:…はい
−あの森には 何かがあるのかもしれない アメルやあたしに関係する何かが!−
11話
アメル:ここまで、あたしの噂が広がっているなんて思いもしませんでした
トリス:あたしはフォルテから聞くまで、全然知らなかったわよ
それは聖王都がやたら広い街だったせいかもしれないわね
アメル:噂が広まった原因には心当たりがあるんです
村の人たちは、みんな聖女の癒しを求めてやってくる旅人からの収入で
貧しい村の生活が変わるのではないかと信じてましたから
トリス:村人たちが、宣伝していたってことね…
アメル:今にして思えば おじいさんが心配してたのは、このことだったのかもしれません
噂を聞きつけて来る人たちが、必ずしも村に幸福をもたらすとは限らないって…
今になってからわかっても、しかたのないことですけど
ちょっと、くやしいですよね…
トリス:……
−高い代償だったわね たしかに…−
12話
アメル:トリスさん あたし、決めました
もうこれからは 自分のもってる力をこわがらないって
トリス:えっ?
アメル:あたし、何度もこの力のことをうとましく思いました
黒の旅団に村が襲われた原因も みなさんが危ない目にあってきたのも
自分がこんな力をもってるせいだって思い続けてました
だけど…
鬼にされた人たちを見た時…思ったんです
鬼が人の心を食い荒らしてしまう病気だとしたら
あたしが、もっと強い力を使えていたら助けられたんじゃないのかって…
トリス:アメル…
アメル:ただの思いこみなのかもしれません
でも、どうあってもこの力を手放すことができないのなら
もっと、もっと役に立つようにしたい
この力が、あたしにとって不幸をもたらすものだったとしても
周りの人たちに幸せを与えることはできると思ったんです
トリス:思いこみなんかじゃないと思うわ
だって、アメルはその力で、あたしたちを何度も助けてくれてるんだから!
きっと、できるわ?
アメル:トリスさん…
−力が不幸を呼ぶなら そのぶん、あたしたちで幸せにしてやればいい。そうよね?−
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