16話
リューグ:結局また、テメエに頼っちまったな…
トリス:そんなことないわよ
リューグ:別に感謝なんかしちゃいねえよ
元はといえば、原因はテメエの先祖なんだ
ま…そのことでテメエを責めたりはしねえがな
こうなった以上最後まで、責任とれよ
トリス:へ!?
リューグ:二度とあいつを泣かすなって言ってんだよ
男の俺じゃ役不足なんだよ…
これ以上、言わせるんじゃねぇ…
トリス:…わかった
―リューグ…なんだか、すこし寂しそうだったわね―
17話
リューグ:黒の旅団のやり口には慣れてきたつもりだったがな…
ハッ!今日のはまた格別だったぜ…ヘドが出そうなくらいになッ!!
トリス:リューグ…
リューグ:なあ、トリス レイムって野郎がしたことも、黒騎士の指図なのかよ…
レルムの村の時といいトライドラでの戦いの時といい…
デグレアは、汚いやり方でしか戦えなね連中なのかよッ!?
トリス:わからないわ…あたしにも…
でも、ルヴァイドとレイムのやり方はどこか確実に違ってる
そんな気がするのよ あたしには…
リューグ:……
―もしかすると…デグレアも一枚岩じゃないのかもしれない―
18話
トリス:リューグは、いつからご両親が亡くなられた本当の理由に気づいていたの?
リューグ:変だと思っていたのはかなり前からさ
後にも、先にもあれから、村をはぐれが襲ったことは一度もなかったしな
ジジイに原因があると疑うのには、そう時間はかからなかった
トリス:そっか…
リューグ:だから、俺は兄貴やアメルのようにジジイと接することができなかった
もしも、ジジイが俺らの両親の死ぬきっかけを作ったんだとしたら…
そんな奴に頼るのは間違いだって、ガキの頃から思ってたのさ
トリス:もしかして…リューグが、強くなることにこだわりをもってるのって
リューグ:…そうさ
俺は、早く自分の力で生きられるようになりたいと思っていた
それがねじまがってこんなカタチになったのかもしれねえな
トリス:今でも、そうなの?
本当のことを知った今やっぱり、リューグはお爺さんと一緒にいたくないって思うの?
リューグ:……
トリス:あたっ!?
リューグ:ハッ!?だったら とっとと、おさらばしてるだろうがよ?
トリス:リューグ…
リューグ:今の俺はもうガキじゃねえんだ…
ジジイの気持ちくらいわかってやれるぜ
それにな…アメルや、バカ兄貴をほっとけるかよ?
トリス:ああ…そっか? そうよね!?
リューグにしてみれば心配だものね?
リューグ:…あいつらよりもむしろ今は、テメエが一番心配なんだがな
トリス:へ?
リューグ:ハッ! なんでもねえよッ!
っとに…ニブイ女だぜ…
―あたしが心配しなくてもリューグはとっくに自分で答え、見つけていたのね…―
19話
リューグ:ハッ、まさか戦争をふっかけた親玉の街が、一番の被害者だったとはな…
トリス:黒騎士たちも、結局はあの三人の召喚師たちによって踊らされてただけだったのね
彼らも、ある意味で被害者といえるのかもしれないわね…
リューグ:だからって、ヤツらがやったことを水に流すつもりなんて、俺にはないからな?
トリス:リューグ!?
リューグ:だまされていようが村を焼き払ったのは 間違いなく、黒騎士のやったことなんだ
ケジメはつけさせてもらうぜ…
トリス:この戦争は、もう意味のないものなのよ!リューグ!?
リューグ:わかってるさ テメエらのやることに俺は最後までつきあう
だが、そこから先は俺とあの野郎の問題だ
誰にも、口は出させたりしねえ…!
たとえ、お前でもな トリス
トリス:(ダメだよ…それじゃ、ダメなのに…)
(それじゃまた、誰かが傷ついたり、悲しむだけじゃない!?)
―リューグの…わからず屋…っ!―
20話
トリス:ねえ、リューグ…
リューグ:なんだ?
トリス:アメルがあたしたちに背負われて帰ってきたのに、どうして平気でいられるの?
リューグ:はっ、なにを聞くかと思えばそんなことかよ
トリス:だって、前だったらあたしのこと、絶対せめてたのに…
リューグ:あのなぁ…
せっかく人が信用してやろうって思ったのをブチ壊す気か、おい?
トリス:へ…?
リューグ:おまえが手を抜いたから、あいつが倒れたわけじゃねえだろうが
そうだろ?
トリス:う、うん…
リューグ:だったら、仕方がねえことだったんだろうさ
あいつは、自分よりも他人のことばっかり考える女だからな
守るほうの気苦労も考えねえでよ…
むしろ、誰かを守ろうとばかりしてるんだからな
トリス:うん…たしかに、そういう女の子だよね アメルは…
リューグ:ガキん時は、もっとすごかったんだぜ?
バカ兄貴の真似して俺のこと、弟みたいに扱っててさ…
泣き虫のくせに、姉さんぶってて、いつも俺の世話ばかり焼いてやがった…
トリス:リューグ…?
リューグ:結局のところ 俺は、あいつにとっていつまでたっても弟でしかなかったってことだな
トリス:……
リューグ:そして、俺もどこかであいつに甘えていたのかもしれねえな…
だが、それもそろそろ卒業するぜ
あいつは…アメルは、俺たちの母親じゃねえんだしな
トリス:リューグ…
リューグは…アメルのことを…
リューグ:言うなッ!!
あいつにとって、俺は弟なんだよ…
頼む…これ以上、言わせるな
トリス:…わかった
リューグ:怒鳴ったりして悪かったな
トリス:ううん…あたしのほうこそ 余計なこと、聞いてゴメン…
リューグ:ふっ切ったつもりだったんだがな まだまだ、俺もガキだってことか…
トリス:そんなことないよ!
リューグは、あたしなんかよりも、ずっと大人だと思う…
リューグ:…はっ
相手が変わっても 結局、やってることはおんなじかよ…
トリス:?
リューグ:さっさと部屋に戻って寝ちまえよ?
俺はもうすこし一人で、風にあたっていたいんだ…
トリス:う、うん…
―リューグの背中 なんだか前よりもずっと広くなった気がするよ…―
21話
リューグ:メルギトスに向かって斬りかかっていくあいつを見た時にな
俺はようやく気づいたんだよ
どうして俺があいつを憎まずにいられなかったのかってことがな…
トリス:え?
リューグ:俺だったんだよ アイツは
今の居場所がつらくて 力を手に入れればそこから逃げられると信じて…
必死にもがき続けた ありのままの自分から目を背けてな
トリス:リューグ…
リューグ:ハッ!偉そうに仇討ちなんてお題目を掲げておきながら
結局、俺はあいつを自分自身にみたてて憎んでいただけさ
それがわかったらな なんか…なえちまったぜ
トリス:そっか…
リューグ:ただ、そういう気持ちは別にしてもな
あいつとは、きちんと決着をつけたかった
剣士としてな…
―黒騎士はやっぱり リューグにとって宿敵以上の存在だったのね…―
22話
リューグ:ハッ、真正面から悪魔にケンカを売って平然としてやがるとは
あのメガネじゃねえが バカか?って言いたくなるぜ…
トリス:返す言葉もないわね それについて…
でもね、リューグ あたし、ああ言ったこと、後悔してないのよ
リューグ:テメエのツラを見てりゃ それぐらいのことは俺にだってわかるさ
止めたところで 引かねぇって顔だぜ
トリス:リューグもね?
リューグ:ああ…ここまで来たら、もうやるしかねえだろう
最期の最後までつきあってやるぜ
トリス:リューグ…
リューグ:……
トリス:え…? ちょ、ちょっとっ!?
どうしたの、リューグ い、痛いよ…っ?
リューグ:こうでもしなけりゃあ テメエは、気づきもしねえからな…
トリス:え?
リューグ:一度しか言わねえぞ
俺は、テメエのことが 好きだ…ッ!
トリス:!
リューグ:だから…守ってやる…
他の誰にも傷つけたりなんかさせねえ
俺が、お前を 守ってやる…ッ!
トリス:リューグ…
うん…
リューグ:ハッ…今日の俺は、どうかしちまってるらしいぜ
テメエに、こんなこと言っちまうなんてな
トリス:……
リューグ:とにかく…そういうこった!
約束しろよ…お互い、生きて帰るってな!?
トリス:うん…
ED
小屋にて
リューグ:…トリス?
なにやってんだよ? 人をさんざん待たせやがって…
メシを食べたら外に出て待ってろって言ったのはお前だろ?
トリス:うん、ゴメン…うっかりしてたわ
リューグ:うっかりってお前なあ…
ハッ! よくもそう毎日毎日、うっかりを連発できるもんだな
一緒に暮らしてる俺の迷惑も考えやがれよ ったく…
トリス:むぅ…ホントにゴメン…
リューグ:で、どうすんだよ 用事ってのは、やめにすんのか?
トリス:ダメよ!他のみんなが来る前に きちんとキレイにしてあげないと…
リューグ:だったら、さっさと道具もってついて来いよ
もたもたしてたら あの野郎の掃除なんて終らねえぜ
トリス:ちょ、ちょっと!急ぐからさ、リューグ待ってってばぁ!
大樹の前にて
リューグ:散らばってた落ち葉はまとめて、袋に詰めておいたぜ
トリス:ご苦労さま、リューグ
樹皮の痛んでる部分も処置したし、なんとかみんなが来る前に作業が終ったわ
リューグ:枝の間引きに、雑草の引き抜き…
お前の庭師っぷりも すっかり板についたな
トリス:ははははっ さすがに、二年近くもこうしてればね
リューグ:二年か…早いもんだぜ…
ネスティの野郎がこの樹になっちまってから、もうそんなにも経つんだな…
トリス:ええ、そうよね
聖なる大樹…
この樹がネスだって知ってるのは、多分あたしたちだけ…
あの時から、ずっと邪悪な魔力を吸収して浄化し続けているのも
リューグ:ああ、一日も休むことなくな…
ハッ、きちょうめんなあいつらしいって つくづく思うぜ
誰に感謝されるわけでもねえのに、損な役回りを引き受けていっちまいやがって
お人好しすぎなんだよ あいつは…
トリス:リューグ…
リューグ:もっとも、それに輪をかけてバカなのはテメエだがな…
聖なる大樹の護人 いったい、いつまで続けるつもりなんだ?
いくら待ち続けてたって あいつが帰ってくる保証はねえんだぞ?
トリス:ええ、わかってるわ 本当はこんなこといつまでもしてちゃいけないって…
アメルみたいに あたしも、前向きになって生きないと
ネスにさ…叱られるもんね
リューグ:トリス…
トリス:でも、もうすこしだけ待っていたいの あたしは…
リューグ:ま、お前の人生だしな 俺が口を出すようなことじゃねえ
それだけ、はっきりと自分のことがわかってるなら、なおさらだ
トリス:ありがとう…リューグ…
でも、それはキミも同じなんだよ
あたしにつきあって ここで、過ごすことなんてないんだよ
リューグ:ハッ!それこそ余計なお世話だぜ
俺は好きで、お前の側にいるんだ
あいつの代わりには一生かかってもなれねえがな…
俺は、お前を守る 守りたいんだ…
トリス:リューグ…
うん…っ
ネス、聞こえる?
あなたのおかげで、あたしたちはこうして生きているわ…
ネスが言ってたとおり 人間は、やっぱり嘘つきで自分勝手だけど…
でも、昨日とは違う よりよい明日をめざして生きようとしている
だから、あたしも信じていいよね
いつかきっと…誰も悲しまずにすむ未来がこの世界におとずれるって
だから…ずっと、ずっとこの場所から、あたしたちを見守っていてくれるよね?
リューグ:さて、戻るぜ そろそろバカ兄貴たちも来る頃だし
トリス:そう言えば、ロッカは村を再建するんだって言ってたけど…
どうなのかしら?うまくいってるのかな
リューグ:おい、愚問だぜ クソ真面目なあいつが しくじったりするわけねぇだろうが…
トリス:そっか…
リューグ:ところで、この集めた落ち葉はどうすんだ?
トリス:みんなが来たらさ これで焚き火でもしておイモを焼こうかって思うんだけど
リューグ:はははははっ そいつはいいかもな
トリス:ねえ、リューグ
リューグ:ん?
トリス:ありがとう…側にいてくれて…
キミがいてくれたから あたし、悲しみに負けずにすんだんだと思ってる…
リューグ、本当に強くて、頼りがいがあるから…
リューグ:ハッ!くだんねえことを言ってんじゃねえよ
―ホレた相手のためなら 男はいくらでも強くなれるんだぜ―
「輪投げの達人」
←Back Top→