クラレットの癖ね、それ』



自分では気付かないからこそ、癖、というもの。

その言葉に、クラレットは今自分が何をしていたか、思い出そうとする。
だが、心当たりなど無い。
自分の一挙手一投足、どんなに思い返してみても、不自然な事など無いのに。

 何をしたのでしょう?

小首を傾げて本気で悩みだす彼女に、その言葉を言ったリプレがくすくすと笑う。
そして、そっと呼んだ。

「…クラレット?」

はい?と反応した彼女に、ますますリプレは楽しそうに声を立てて笑い出す。

「ほら。やっぱり」
「?」
「貴女の、癖」
「??」
「気付かない?」








「クラレット」

呼ばれて彼女は肩越しに振り返る。

「…はい」

答えながら、今度ははっきりと自覚した。

 ああ、本当、ですね…

心の中だけで頷いて、手の中の本を閉じて立ち上がる。

「なにか、ご用ですか?」
「あ、ああうん。一緒に散歩でもどうかな、って誘いに来たんだけど」
「散歩…ですか」
「今日はいい天気だし、部屋の中でくすぶっていたってもったいないよ」
「そう、ですね」

こくり、と頷くと、目の前の少年の顔がほころんだ。
日に焼けたような色の髪を揺らし、同色の瞳を細めて。

そんな彼をクラレットは見つめる。
目を逸らせない。

 だって。
 だって、リプレさん。
 だって、本当に眩しいのですから。







「私たちをね、見る時、とっても眩しそうな顔をするのよ?」
「…え?」
「彼を見てる時なんかは、特にそうね」
「………」
「…気付かなかった?」








外に出た瞬間。
照りつける日差しに、クラレットは目を細めた。

「…眩しい、ですね」
「薄暗い部屋の中にいたから、余計にそう感じるよな。でも、気持ちいいだろ?」
「……はい」





 あそこは暗かったんです。
 陽も当たらない森の中で。
 いつも薄暗い屋敷の中で。
 笑顔も笑い声も無い。
 有るのは、起伏の無い言霊と恫喝と叱責、そして忍び泣く声。
 そんな世界しか知らなかったのです。
 だからどんなに、皆さんの笑う顔が眩しかったか。

 …解ってくれますか?





 私が闇で月ならば。
 彼は光で太陽。

 声も。
 笑顔も。
 手の温もりも。

 陽の香りがするのですから。
 眩しくて眩しくて仕方がないのですから。

 恐れながらも。
 総ての闇を光が照らし出してくれる事を、願って止みません。




「クラレット?どうした」

高い太陽を見上げたまま、立ち尽くしているクラレットに、少しだけ心配そうな声が届く。

「いいえ、何も」

横に首を振り、いま自分が出来る精一杯の笑みを浮かべる。
太陽の光を受けて輝く月の笑みに、思わず呆けた彼に近づきながら手を伸ばす。

「待って下さい。ハヤト」








クラレットさんが主人公たちを眩しそうに見上げる、というイメージは前々から有りまして。
特に行動系の二人…ハヤトとナツミさんにはそうじゃないかと。
このお題を拝見した瞬間、「これだ!」と思ったほどですから。
書けて良かったです。
ちなみにこのお題、ハヤト専用ですが、トウヤだとバイキングブルー、ナツミさんが小麦色、
アヤがホリデーピンク、でした。
本文の色を『サンビーム』にしてみました。どうでしょう?
ハヤト以外の三人で書いていたなら、どんなお話になっていたんでしょう。
ちょっと気になります…


20040326UP



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