「いいなぁ。クラレットの髪、とっても綺麗で」 髪を梳く手を止めて、リプレがほぅ、と溜息を吐く。
「…そ、そんな事、ないですよ」
頬をほんの少し染めて、視線を落とすクラレットが鏡越しに見える。
「ほんと、ほんと。あたしの居た世界でもクラレットみたいな髪の色した人なんて居なかったもん。珍しいし、なんたってキレイだよ」
「あ、あの…」
「そうそう」
「特にね、走ったりすると、此処のトコが揺れるのが可愛いんだぁ」さらさらでストレートの髪。
何故かそこだけ、くせの為にぴょこっ、と跳ねている横髪を楽しそうに撫でる。「な、ナツミ…」
更に顔を赤くして押し黙ってしまったクラレットと、愉快そうに笑うナツミを見比べて、リプレもくすくすと笑った。
頭のてっぺんから毛先まで。
ひとつとして引っ掛かりの無い艶やかな、紫色の髪に、再び櫛を入れながら、今度は横から自分たちを見ているナツミに声を掛けた。「そう言うナツミだって、伸ばしたら似合うかもしれないよ」
「ジョーダン。絶対、似合わないって」手を横に振りつつ、苦笑いで答える。
「ちっちゃい頃さ、伸ばしてた時も有ったけど、すっごい似合わなかったもん。
それに、短い方が動きやすくて、あたしは好きだし」
「…まあ、確かに今の方がナツミらしい、って気はするわね」
「でしょ?でもリプレも長いの似合うよね」
「そう?ありがとう。私は逆に小さい頃は短かったの。今じゃ、これだけど」
首を軽く振って、長いお下げを軽く動かしてみる。「似合うからいいじゃん。…あ!そうだ、リプレお願いが有るんだけどさあ」
「なに?」突然、何か閃いたかのように目を輝かせて身を乗り出したナツミに、何となくクラレットは予感を感じる。
「クラレットにもやってみてよ、それ」
「それ、って…三つ編み?」
「うん、そう!」
「あ、あの…」何となく予想通りの言葉に、クラレットは慌てて言い募ろうとするが、うん、それいいね、というリプレの声に打ち消される。
「あ、…ちょっ……」
「はいはい。すぐ出来るから」立ち上がりかけたクラレットの肩を押さえて再び座らせると、慣れた手つきで編み込みを始める。
「ナツミっ!?」
「どしたのー?」抗議の声も何処吹く風。
確信的な笑みに、悔しさを覚えつつ、待つこと十数分。「どう?クラレット」
「すっごい可愛いって!絶対!!」
「………」目を瞬かせて、鏡を見る。
其処に映っている自分は、見た事の無い自分。
髪を纏めるだけで、雰囲気すら異なる新しい自分。
こんな事で生まれ変わったような気分になるのが、可笑しくもあり、嬉しくもあり。
ひとつに纏められた髪に触れながら、ふぅ、と小さな息を吐く。降参です。
こんな事をされては。
「…有り難うございます」
「あっ、ううん。こんな事でお礼言われても困るよ。でも勿体無いわね。もっと貴女に似合う服が有ればいいのに…」
「そんな。十分です」こんな風に感じる自分を見つけられただけでも、十分すぎるのに。
「そんじゃ、みんなにお披露目、と行こっか!」
「ええっ?!」
「そうね。折角だし」
「あ…」拒否しようとして、止める。
これぐらいは仕方ないですね。
「じゃ、行こ!」
腕を引っ張られて、背中を押されて部屋を後にしながら、クラレットはもう一度鏡を振り返る。
びっくりするほど穏やかに微笑む自分が、其処から見送ってくれていた。
リプレさん絡みの話を考えたらぼろぼろ出てきたネタのひとつ。
三つ編みな姫は如何ですか?女の子特有の可愛い風景を目指しました。
3人の優しい笑顔を想像して下さい。
どうでもいいケド、私は姫の横髪のハネが大好きです!
ぴょこぴょこ撥ねてる誓約者ルートのドット絵は猛烈に悶えましたとも!(本当にどうでも良い)
20040203UP
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