「……誓約の下、クラレットが命じる!いでよ、ポワソ!」
「テテ、おいでっ!」

ぽぽんっ、と愛嬌のある音と共に、それ以上に愛らしい召喚獣が現れる。
その可愛らしさに一瞬怯んだ盗賊達を、その姿とは裏腹な圧倒的な力でなぎ倒していく。
   
その間、約1分。

「お疲れ、テテ」
「有り難うございました。ポワソ」

何処にそんな力が有るのかと思うような、小さく柔らかな、ぬいぐるみと見紛いそうなそれぞれの召喚獣を抱き上げて。

「そう言えば、クラレットってば、いっつもポワソを呼ぶよね。テテとかも呼べるはずなのに。
…なんか、ポワソに思い入れ、ある?」

そう問われて、クラレットは腕の中のポワソを暫く見つめ、ふっ、と瞳を細めた。

「…そう、かもしれません。初めて召喚に成功したのがポワソでしたから」
「そうなんだぁ。あたしは初めて呼んだのは金ダライだったっけ…」

今日もふたつほど脳天めがけて落っこちて来たタライが近くに転がっている。
あの痛さもさる事ながら、くわわわわぁぁん…、とマヌケな震える音が響き渡る瞬間は、何度体験しても惨めになる。

「……それは召喚の『成功』とは言いません」
「んじゃあ、ペーパーナイフとか、錆びた剣、とか」

 刃を下に降って来るのを見た時にはびっくりしたね。ホントは笑い事じゃないんだけど。

そう言って、あはははっ、と笑うが、空から降って来た剣やナイフがさくさくさくっ、と地面に突き立った日には、誰だって寿命も縮むもの。

「それも、成功とは言い辛いですが…まあ、失敗とも一概には言えませんね。
私の知る限り、貴女の初めての召喚は、そのテテですよ」
「…そっかぁ…じゃあ、あたしもこのコに思い入れを持ってるってことだね」
「…きっと、そうです」
「…うん。それじゃ、これからもよろしく、テテ」
「ご苦労様でした、ポワソ」

二匹の召喚獣をサモナイト石に戻し、近くに落ちている戦利品を拾い上げると、二人は踵を返す。

「それにしても、クラレットは召喚術が上手いよね」
「幼い頃からやってるから、ですよ」
「あたしみたいに、失敗なんかしないでしょ?」
「まさか。数え切れないくらい失敗しましたよ」

そう言われて、ナツミはふっ、と想像してしまう。
   
 即ち。

「ぷっ」

堪え切れずに笑い出したナツミに、怪訝そうな顔でクラレットは尋ねた。

「何がそんなにおかしいのですか?」
「だ、だってさぁ…」

堪え切れずに、あははははっ、とお腹を抱えて笑い出す。

「???」
「だ、だってだって…クラレットが頭にタライやおたまを落としてたなんて、想像つかなくってさ。
でも、考えてたら、すっごい可愛いなぁ、って…」

 タライを頭に落として、思わず蹲って痛みに耐えてる、ちっちゃい頃のクラレット、なんてさ。

「あ…!」

流石にそこまで連想されているとは思わなかったクラレットは、顔を赤らめ抗議をする。

「あはは…ゴメン、ゴメン」
「…もぅ」
「でも。ってことはさ、あたしもまだ上手くなれるって事だよね?」
「…そうですね。貴女の努力次第、ですけど」
「うん!なら、がんばらなくちゃ。あたしもテテも」
「……はい…」

 その力は、確かに必要なものです。
 でも…その力が何か、を。 
 そして、その力が引き寄せてしまうものを、貴女は知りません。
 その時…貴女は私を恨むでしょうね…

この屈託無い笑顔が消失してしまう日が、何より怖い。

 それでも…まだ言えません…

「どうしたの?早く行こ」
「…はい、すみません」

剣を握る所為で、少し硬い、でも華奢な手が伸びて、クラレットの腕を掴んだ。
服越しに伝わる温かさを感じながら彼女は願う。

 私はこの温かさを信じています。
 私はこの優しさを信じています。
 私はこの笑顔を信じています。
 だから、その前に必ず貴女を…

願いは音に成らず、消えていった。




春日あこや様の絵に強烈影響を受けて突発的に書いたもの。
ほのぼのの筈がなんでこんなに切ない終わりになったのか、今もって謎です。
頭に金タライを落とす、ちっこい姫がウケていましたね…
ナツミさんは獣属性が良くお似合いな気がします。


20040204UP


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