くるりくるりくるり。

ティーカップの中でスプーンが踊る。

 くるりくるりくるり。

見ていたら、目が回りそう。


「あ、あの…アメル、さん?もう、冷めているのでは?」
「え?あ、はい。そうですね」

そう言って、カップを口許に持って行くが、飲む気配は無く、視線はずっと、自分の向かいに居る人物を見ている。
すなわち、今此処で一緒にお茶を飲んでいるただ一人の人物、クラレットを。

「あの…先程から私をじっと見てますが…顔に何かついています?」
「…あ!いいえ、すみません。気を悪くしちゃいました?」
「いえ…そんな事は無いですけど。どうされたのかと思いまして」

カップをソーサに置いて、此処ではない何処か遠くを一瞬見た後、くすくす、っと笑った。

「言われたんです。あたしと貴女がとても良く似てる、って。
だからつい、じっと貴女を見ちゃってたんです。何処が似てるのかな、って」
「……私とアメルさんが、ですか?」
「はい」

 きょとん、とクラレットが目を丸くする。
 くすくす、っとアメルが楽しそうに笑う。

「…似ている、でしょうか?確かに私も貴女も霊属性の召喚術を使いますが…
あとは少し言葉遣いが似ているかもしれませんけど、それ以上は…」

 栗色の髪。榛の瞳。
 青紫の髪。同色の瞳。
 互いの瞳に映る、自分。
 近いけど、届く事の無い。
 
「あたしも髪が長いし、ぱっ、と見た目が似てるんだと思ってましたけど」
「けど?」

カップを持ち上げ、すっかり冷え切ってしまった中身を一口含む。
クラレットは、黙って次の言葉を待っている。

 何時も自分たちを包むあの喧騒が無い。
 違うのはただ、それだけ。
 それだけなのに。
 ゆったりとした穏やかな時間が流れている。
 柔らかな静けさが心地いい。

 カップを置く音。
 カーテンをノックする風。
 呼吸音。
 さらり、と髪が靡く音までもが伝わってくる。

「似ているんじゃなかな、って思います」
「…何処が似ているのか、お聞きしても宜しいですか?」

至極真顔で尋ねるクラレットに、アメルは天使の微笑みを返す。

 かたん。

立ち上がり、テーブルから身を乗り出してクラレットに近づく。

 栗色の髪。榛の瞳。
 青紫の髪。同色の瞳。
 触れ合って、混じる。
 今日の日差しのような暖かさを作り出しながら。

 「―――それは、ですね…」

 こそり、と囁かれたそれに、目を瞬かせて。
 それから、笑う。

 目の前の少女と同じ顔で。

穏やかで、暖かな昼下がりの午後。




同じパートナー同士でもネスティの「アメとムチ?」とは対極の位置に有る話です。
小噺、と言うより、詩のような優しい描写が良い、と言って貰えました♪
前日の暗い話から脱却しようと足掻いて書いた覚えが凄く有ります。
その時は夢中で書いたので解りませんでしたけど、或る意味、とても私らしい話ですね。


20040210UP


の十一   es op   の十三