初めてあなたと出会った年の冬。
初めて此処に雪が積もった日。

まだ薄暗い空の下に、あなたが居たのを見た事が有ります。

立ち尽くしていたあなた。
じっと空を見つめていたあなた。

何度も何度も声を掛けようとしていた事をご存知でしたか?
「なにをしてるのですか?」と言おうとしていた事をご存知でしたか?

でも…
ダメでした。

その時のあなたの背は総てを拒絶していて。
その時のあなたの頬には止め処なく涙が流れていて。

声を掛ける事はおろか、近づく事さえ出来なかった私が居た事をご存知でしたか?

舞い降りる雪に手を伸ばしたあなたを横目に見ながら、私は逃げたんです。

いたたまれなくて。
怖くて。
苦しくて。
痛くて。
…哀しくて。

 
それから一時も経たない内に会ったあなたは何時もどおりで。
子供たちと一緒に遊ぼう、と朗らかに笑っていましたね。

ずっと、ずっとお聞きしたかったんです。
 
 どうして泣いていたのですか?
 何が哀しかったのですか?
 私に出来る事は有りませんか?

…結局、どれもお聞きする事は出来ませんでしたけど。

 
あなたが居なくなって初めての冬。
あなたが居なくなって初めて積もった雪。

あなたが居た時間。
あなたが居た場所。

同じようにそっと舞い降りる雪に手を伸ばす。
ふわり、と舞い降りた綿帽子は、音もなく静かに融け消えて。

今は無理ですけど。
何時か必ず。
この雪が融け、アルサックの花が咲くまでには。
必ずあなたの下へ行きます。

だから。
その時には。

どうぞ笑っていてください。
苦しみも哀しみも代わる事は出来ないけど。
私に半分持たせてください。

笑う事。
歩く事。
前を見る事。

総てを教えてくれたあなたらしく、笑っていて下さい…ね。




日野司様の「雪の中に立つクラレットさん」を拝見して、書きなぐったものでした。
いえ、他に元ネタが有ったので、そのイラストに合うようアレンジを…
って見事に失敗してますが。
小春日和の中、微笑む姿も似合いますけど、雪の中寂しげに笑む姿も捨て難い。
こんなんでも書いて晒してしまうほど、描き手さんの力は偉大なのです。


20040211UP


の十二   es op   の十四