「ねぇねぇ、ご主人さま?」
「…いい加減に止めてください、ナツミ」

心底楽しそうなナツミとは裏腹に、あらかさまに肩を落として溜息を吐くクラレット。

 聖王都ゼラムから来たトリスとその仲間達とともに悪魔メルギトスを封印してから、既に一ヶ月。
 彼女らとの別れの際、トリスの親友アメルが護衛獣発言をした事で、そんな楽しい(?)システムを
知ったナツミが飛びついた、のは言うまでも無く。
 だが、しかし。
にべもなく、その提案を却下し続けてきたクラレット。
傍から見ていれば、楽しい事この上ない二人の会話を止める者は、このフラットにはもう居ない。

「だって。あたしを呼んだのはご主人さまだし?間違ってないよね?」

 『ご主人さま』という部分にだけ、酷く悪意が有るように聞こえるのは、気の所為なんでしょうか?

心の中で祈りに似た何かを願いつつ。

「私は貴女と誓約を結んだ覚えは無いですよ?」
「そーなんだよねー。でも、してなくったってキミ…ご主人さまがあたしを呼んだ事には変わらないし」

 本音を言えば、今すぐでもいいケド?

 にぃ、っと笑う。
間近でそれを見せられて、クラレットの思考が一瞬飛びそうになる。

「…ど、どうして、そんなに誓約に拘るんですか?」
「拘ってるのはそっちじゃん。あたしが誓約者だからダメ、とか言っちゃって。
あたしが誓約に拘るのは、『誓約』というのが、あたしにとっては理由だから」
「…理由?」
「そ!」

真正面に、向かい合う。
少しだけ背の高いクラレットの紫色の瞳を赤茶の瞳が鮮やかに映し出している。

息が届くほど。
呼吸が聞こえるほど。
余りに近しいその距離で。

「だって、誓約、ってのはさ。つまりは自分のところへ強制的に留めて置く、って事だよね。
だったら、あたしには願ったりだもん。
絶対に近くに居れる。護れる。そのためならあたし、なんだってやるよ」

 それがただ、護衛獣、ってだけだよ。

今度は照れくさそうに。

「まあ、誓約してなくったって、あたしの召喚主はご主人さま、キミだから。あたしはキミの召喚獣、でしょ?」

 
 ふぅ。
クラレットは再び大きな溜息を吐いて。

「ずるいですね、貴女は」
「…??」
「私が同じ事を願わなかったって思います?
何時も私が貴女の側に居て、貴女を護りたい。
思っていても口に出せない事を、貴女はあっさり言ってしまうのですから」
「……クラレット…」
「私だって、貴女を護りたいのです!」
「ん…ありがと。でも、それはあたしの役だよ」
「ナツミ!」

断られ、愕然とするクラレットの頬にそっと触れて。

「だって、あたしは他ならぬキミが呼んでくれた護衛獣だもん。誰にも譲らないよ。…でもね」

俯いたクラレットの顔を覗き込んで、微笑む。

「ご主人さまがあたしを誓約してくれたら、考えてもいいケド?」
「……!でも、それでは私にはメリットが少ないと思いますが?」
「あはは。バレちゃった」
「…ナツミ…仕方ありませんね」

言って、もうひとつ溜息。
クラレットも覚悟を決める。
こうなれば、長期戦。
諦めさせるのは出来ないかもしれないけど、それを受けるわけにも行かないから。

軽く頭を振って、小さく笑む。
ナツミの弱い、儚く、でも綺麗な笑顔。

「…誓約は今はまだ出来ませんが、貴女が私の護衛獣というのは認めます。それでいいですか?」
「……あ、うん…」

普段は何時も自分が無意識にやっている事とは露知らず、内心反則だぁ、
とツッコんでしまうが、心とは裏腹に相槌を打つ自分を自覚する。

こうなっては完全にクラレットのペース。
主導権をものにしたクラレットは、普段見せない小悪魔的な微笑で、ナツミの耳に唇を寄せ、囁く。

「…それでは、よろしくお願い致します。私の、護衛獣さま?」



これも。先に日野司様のナツクラ護衛獣布教イラストが有って。
「絶対書いてやるー!」とか無意味に心に誓っていたもので、最終日にようやく書けました。
いつもイツモ何時も。ナツミさんに振り回される姫にガンバレ、の意味合いを込めたのですが…
思いっきり空回りだったような(たはは…)
結果はともかく。この二人の護衛獣話は可愛くて、良いですよね♪
そう思って頂ければ、是、幸い。


20040215UP

の十七   es op   の十九