17話



 広間
ローカス:ハヤト(あいつ)とクラレットはどうしているんだ?
カイナ:あれからずっと、二人で部屋に閉じこもったままです
カザミネ:しかし、信じられんでござるな
     クラレット殿があのような連中の仲間だったとは…
レイド:クラレットが隠していた秘密というのは、このことだったんだな
ジンガ:くそっ!どうして今まで隠してたんだよっ!?
アカネ:仕方ないと思うな 簡単に言えちゃうようなことじゃないもん
スウォン:そうですね…
ギブソン:いや、そういう感情の問題ではないだろう
      クラレットはハヤト(彼)を確保することが目的だった
      最初から、そのために君たちの仲間になっただけなのさ
ガゼル:クラレットが最初から俺たちを利用してたってのかよ!?
ギブソン:そうとしか思えない
ガゼル:てめえっ!!
ミモザ:ちょっと、ギブソン! 言い過ぎよ!?
モナティ:ひどいですのっ! ギブソンさん…
エドス:しかし、ならどうしてクラレットはすぐに目的を果たさなかったんだ?
     ハヤト(あいつ)を連れていく機会は、何度でもあったはずだ
ローカス:俺にはわかるぜ 多分、あいつは迷っちまったのさ
レイド:迷った…?
エルカ:お人好しのあんたたちと暮らしちゃったせいでね
サイサリス:クラレットは多分、最初はギブソンの言ったとおりにするつもりだった
       けれども、貴方たちと暮らすうちに迷ってしまったんでしょう
       自分がやろうとしていることが、正しいことなのかどうか…
ギブソン:迷わなくても、そんなことはわかりきってることだ!!
      世界を好き勝手に造り変えるなんてことが、許されてたまるか!?
シオン:ご自分の価値観だけで物事を考えてはいけませんよ?
スタウト:連中には連中の考えがあるってことさ 頭から否定しちまうのはどうかねえ
ギブソン:くっ…
ラムダ:いずれにしろ今、一番苦しんでいるのはクラレットだ
     そして、それを救えるのはあいつだけだ
イリアス:待ちましょう あの二人が、どのような結論を出すのかを
ガゼル:ハヤト…

 
部屋
クラレット:
すみませんでした
      謝ってすむようなことではないのはわかっているつもりです
      でも…
      今の私には、これしか言葉が見つかりません
      許しを乞うことしか、できない…
ハヤト:オルドレイクの言ったことは…本当のことなんだな?
クラレット:はい、全て真実です
      私は彼の娘 そしてあの召喚儀式の責任者でした
      本当のことをお話します
      私が今まであなたに隠していた全てです
      私の父、オルドレイクの目的は、新たな世界の創造主になること
      このリィンバウムの全ての生物を滅ぼし、世界を空白にしてから
      自分に必要な生き物を改めて召喚し、都合のいい世界を生み出そうとしています
ハヤト:そんな…そんなの、狂ってる!
クラレット:そうかもしれません だけど、あの人は真剣なんです
      狂ってるとすればオルドレイクは真剣に狂っているのでしょう
ハヤト:……
クラレット:続けます…
      世界を滅ぼすために、彼はサプレスの魔王の力に頼りました
      そのために、ふたつのものが必要だったのです
ハヤト:サプレスのエルゴと魅魔の宝玉か?
クラレット:いえ、宝玉はあくまでエルゴの代用品と考えてください
      儀式が失敗しなければ必要なかったものです
      必要だったのは…私の…肉体なんです
      魔王を降臨させるための生けにえとして、私は選ばれていました
ハヤト:そんな…
     それじゃ君は、自分を犠牲にして魔王を呼ぶ気だったのか!?
クラレット:はい、わたしはそのために育てられそして選ばれました
      オルドレイクの何人もいる子供たちの中から そのために選ばれたのです
ハヤト:…!!
クラレット:覚悟はできていたつもりでした
      だけど…最後の瞬間に迷ってしまって…
      魔王召喚の儀式は失敗し、サプレスのエルゴは爆発と共に失われたのです
      爆発の後に残ったのは私と、そして…
ハヤト:俺だったんだな?
クラレット:はい
      ここから先は前に話したとおりです
      私はあなたの力を確かめようと近づきました
      あなたのその力が魔王のものかを確かめるために、です
ハヤト:どうなんだよ…
     オルドレイクが言っていたとおり、俺の力は魔王のものなのか!?
クラレット:私にはわからなかった 本当に…
      ただ、あなたの力が強大だということしかわからなかったのです…
ハヤト:そんな…
 
ノック
ギブソン:ハヤト クラレット ちょっといいかな?
ハヤト:ギブソン?
ギブソン:君たちに残念な知らせがある

 
広間
グラムス:
彼らが、そうかね?
ギブソン:はい、グラムス様
ハヤト:貴方は?
グラムス:ワシの名はグラムス・バーネット ギブソンの師匠にあたる者だ
      【蒼の派閥】の代表として、君たちに会いにやって来た
      率直に用件を言おう
      我々は、君たちの身柄を拘束させてもらう
ハヤト:えっ!?
ガゼル:どういうことだよ!?
グラムス:君たちが何者であるかは、ギブソンに報告を受けている
      世界を滅ぼそうとする男の子供と、魔王の力を持った者…
      見過ごすわけにはいかんのだ
ミモザ:待ってください! 彼らはそんなことを考えてはいません
     二人はむしろ、それを防ぐために戦ってきたんです!!
グラムス:しかし、これから先もそうだとは保証できぬ
ミモザ:…!!
ギブソン:蒼の派閥は、魔王復活を阻止するための戦いを始めようとしている
      負けるわけにはいかない戦いなんだ
      だからこそ、危険の芽は摘む必要がある
エドス:ギブソン お前さんは…
     この二人が、ワシらの敵だと言うのかッ!?
ミモザ:見損なったわよギブソン!!
ギブソン:……
グラムス:我々は決して、君たちに危害を加えるつもりはない
      この戦いが終るまで おとなしくしてほしいだけなのだ
ハヤト:……
グラムス:明日の朝、我々は君たちを迎えにやってくる
      君たちがすすんで協力してくれるのを、ワシは願っているよ

 
部屋
ハヤト:
(もしも本当に、俺の力が魔王のものだったとしたら…)
     (おとなしく彼らに捕まるべきなんだろうか?)
 
ノック
リプレ:入るよ…ハヤト
 
リプレIN
ハヤト:
リプレ それにガゼル?
ガゼル:お前このままおとなしく、連中に捕まる気か?
ハヤト:
ガゼル:逃げちまえよ
ハヤト:え?
ガゼル:クラレットと、お前で今夜のうちにどこかへ逃げるんだ
リプレ:貴方たちが悪い人じゃないのは、私たちが誰よりもよく知ってる
     捕まる必要なんか絶対ないわ!
ハヤト:二人ともありがとう
     だけど、俺は逃げない
リプレ:ハヤト!?
ハヤト:二人が俺を信じてくれたように、俺も自分のことを信じてる
     クラレットのことを信じてるんだ
     だから、逃げない 逃げないで、ちゃんと誤解を解いてみせる
     そうすることが一番の方法だと思うんだ
ギブソン:そのとおりだよ ハヤト
ガゼル:ギブソン!?
ギブソン:君たちの潔白を証明するには、この方法しかなかったんだ
      抵抗さえしなければ、君たちの身の安全は保証できる
      だから、私は…
ハヤト:わかってるよ ギブソン
     俺だって、自分のせいでみんなを危険に巻きこみたくはないんだ
     貴方が選んだ方法は、間違っちゃいない
ギブソン:ハヤト…

 
玄関
グラムス:
決心はついたようだな
ハヤト:はい…
グラムス:では、行こうか

 
街道
ハヤト:
俺たち二人だけなのに ずいぶんな数の警備ですね
ギブソン:幹部たちがそれだけ、君たちのことを危険だと思っているせいだよ
      君たちにはこれから、派閥の本部まで出向いてもらうことになる
      それまでの間は、私が君たちの世話役だ
      監視役でも、あるがね
ハヤト:ミモザは?
ギブソン:彼女はこの決定に不服だったからな 同行することを拒否してしまったよ
      派閥を抜けるつもりだと言ってたよ
ハヤト:そう、ですか…
クラレット:ハヤト 本当にすみません
      あやまっても、どうにもならないのはわかっています
      でも、こんなことに巻き込んだつぐないは私にはあやまることでしか…
ハヤト:いいんだよ クラレット
     それに、被害者なのは君だって、同じなんだ
クラレット:え?
ハヤト:俺はたまたま、事故に巻き込まれて魔王の力を手に入れた
     そして君は、たまたまオルドレイクの子供として産まれてしまった
     どっちも同じ偶然だ
     俺や君が望んでそれを選んだわけじゃない
クラレット:ハヤト…
ハヤト:君は魔王を召喚しようとしたんじゃない
     召喚させられたんだ!
     オルドレイクの都合のいいように育てられて利用されただけ…
     ただ、それだけさ
クラレット:わたしは…
      身勝手に聞こえるかもしれませんが…
      心から笑ったり、怒ったり、泣いたりするあなたがうらやましかった
      わたしが持っていないたくさんのものを持っている貴方たちが
      でも、私の心の中にも同じものがあることに気づかせてくれた
      …楽しかった 感謝…しています
ハヤト:クラレット…
クラレット:わたしもまもりたい 優しい人たちが暮らすこの世界を…
      信じて、ください
ハヤト:ああ…
ギブソン:……
ハヤト:…!!
ギブソン:なんだっ!?
ガゼル:悪いが、そいつらを返してもらうぜ!!
ハヤト:ガゼル…それに、みんな!?
エドス:すまんな やっぱりワシらはお前さんたちを見殺しにはできんかったよ
ミモザ:先回りして、ね 待たせてもらったのよ
     キミたちがどこへ連れていかれるかは、知っていたからね
グラムス:馬鹿な…我々を敵に回すというのか?
レイド:貴方たちに貴方たちの考えがあるように、私たちにも譲れないものがある
    私たちは二人を信じる そのためなら、あえて貴方たちとも戦う!
ガゼル:ハヤトとクラレット(そいつら)は俺たちの大切な仲間なんだ…
     理由はそれで十分だ!そうだろう?
エドス:いくぞ、みんな!!
 
打撃音
ジンガ:アニキは、自分の力の使い方を間違えるような弱い人間じゃねえ!
スウォン:戦いが生み出す悲しみを、その人たちは知っているんです!
ローカス:何も知らない貴様たちが、どうこうする権利なんてないのさ!!
 
剣戟音
スタウト:俺たちはな、そいつに助けられたんだよ
ペルゴ:私たちの進もうとした道が、間違っていると諭してもらったんです
セシル:傷つけあうことだけが道ではないことを、教えてくれたわ!
 
剣戟音
ラムダ:だから、今度は俺たちが助ける番だ!!
アカネ:魔王の力がどうだっていうのさ!? アタシはそんなの気にしないんだから
シオン:大切なのは心のあり方 二人の心には、一点の曇りもありはしない
モナティ:そうですのっ! モナティは、マスターが誰より優しいことを知ってるですの!!
エルカ:自分のことより人の気持ちを考えちゃう、お人好しなんだからね
サイサリス:だからこそ、関係ないはずのこの世界のために戦ってくれている
イリアス:それがどれほどのことなのか、貴方たちにはわかっているのか!?
ギブソン:忘れていたよ…
      君たちは理屈ではなく もっと純粋な気持ちでつながっていたことを
      正しい答えなど、どこにもないんだ
      大切なのは、その答えを正しいと思えるのかどうかだったんだ
ハヤト:ギブソン…
ギブソン:私も、彼らと同じだ
      君たちのことを私は信じたい…
      たとえ、今までの自分が信じてきたものを裏切ってしまったとしても!!
クラレット:ギブソンさん…
ギブソン:帰るんだ! 君たちの本当の居場所へと!!
ハヤト:ああ、一緒に帰ろう みんなのところへ!

 
バトル後
グラムス:
信じられぬ 魔王の力とはこれほどのものなのか?
エルジン:いいや、違うよ
エスガルド:ハヤト(かれ)ハエルゴノ王トナル者ダ
カイナ:4つのエルゴに認められた、誓約者でもあるのです
グラムス:魔王の力を持つ者が、エルゴの王だと?
      そんなはずがあるわけはない!?
ミモザ:しかし、事実です グラムス様
     私とギブソンは、彼がエルゴと誓約をかわすのをこの目で見たのですから
ハヤト:グラムスさん
     この力が魔王のものか誓約者のものなのか、俺にもよくわからない
     だけど、これだけははっきりと言える
     俺は俺だ!
     どこにいても、どんな力を使ったとしても、俺は俺なんだ!!
     そして、俺はこの世界を救いたい
     俺を大切に思ってくれている彼らのために、俺はこの力を使いたいと思っているんだ!
ギブソン:私からもお願いします グラムス様
グラムス:ギブソン?
ギブソン:彼らはたしかに危険な存在なのかも知れません
      だけど二人は、自分の背負ったものの意味をわきまえています
      押しつけられた運命に逃げずに立ち向かおうとしているんです!
      私は…そんな二人を助けたい
ミモザ:ギブソン 貴方、やっぱり…
ギブソン:お願いします 二人に、いや、私たちに時間をください!!
グラムス:派閥の決定は絶対だ ワシにはそれを破ることはできぬ
      だが…
      ワシは戦いに負け、お前たちに逃げられてしまったのだ
      そういうことならば、仕方がないだろうさ
ギブソン:グラムス様…
グラムス:行くがよい! お前たちの信じる道を
ハヤト:ありがとうございます グラムスさん…










―人は、さまざまな思いを胸に秘めて生きている―
―大切なものだから、譲れないものだから、ぶつかってしまうこともある―
―けれど、それでも守りたいと思うものが俺にはあるんだ―
―もう、迷ったりしない―
―俺は守るべきもののために、誇りをもってこの力を使おう
 俺を信じてくれる仲間たちと最後まで運命に立ち向かおう―



クラレット:こんなふうにまた、あなたと話ができるなんて思ってもいませんでした
ハヤト:そうだな…
クラレット:私…あなたが全てを知って どうなるのかがずっとこわかった…
      きっとあなたは、私を憎むだろうと思っていました
      でも、あなたは優しい言葉をかけてくれました
      何故…ですか?
      わたしは、ずっと嘘をついていたのに…
ハヤト:嘘だけじゃなかったからだよ
     たしかに君は、俺たちに嘘をついてきたのかもしれない
     だけど、君は、それとは別に、俺たちを仲間として助けてくれたじゃないか?
     きっかけは嘘だったとしても、君が俺たちにくれた優しさは本当のものだと俺は思う
     だから、俺は君のことを信じられるんだ
クラレット:ありがとう ハヤト
      私…あなたに会えて…本当に…良かった
ハヤト:感謝するのは俺のほうだって!
     君と出会わなかったら俺はきっと、この力の重みに耐えられなかったはずだよ
クラレット:覚えて…いますか
      二人で儀式の跡を調べに行った時、たずねたことを
      あなたがこの世界に呼ばれたとき、助けを求める声がした そう言いましたよね
ハヤト:ああ、覚えているよ
クラレット:私は儀式をしながら、ずっと悩み続けていました
      自分のやっていることが正しいことなのか
      本当に世界を滅ぼしてしまってもいいのか
      答えを出せずに心の中で悲鳴をあげていたんです…
      助けてほしい、って
ハヤト:それじゃ…
クラレット:きっと、あれは、私の心の叫びだったのかも…そう思います
      あなたはその声に答えてくれました…
      本当にありがとう あなたがいたから私は本当の私を知ることができました
ハヤト:クラレット…
クラレット:だから、約束します
      絶対にあなたをもとの世界に帰すと
      今度は、わたしがあなたをまもる番です
      ‥あなたがわたしを助けてくれたように
ハヤト:俺も、約束するよ
     何があっても絶対に、俺は君のことを守ってみせるって!!


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